第77回カンヌ国際映画祭でワールドプレミアが行われた、1億2000万ドルの私財をなげうち、構想40年を経て完成したフランシス・フォード・コッポラ監督の新作『Megalopolis』はかなりの怪作、というか端的にいえば失敗作らしいが、Guardian にその制作模様を取材した記事が公開されている。
コッポラの映画制作にまつわる混乱というと『地獄の黙示録』がよく知られており、後にドキュメンタリー『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』(asin:B01LTHLC86)が作られたくらい(これの共同監督にクレジットされているエレノア・コッポラが先月亡くなっている)。
この記事でも『地獄の黙示録』の話を最初に持ってくるあたり、同じくカンヌ国際映画祭でデビューする『メガロポリス』が、どのような評価を得るか掴みかねている感じだが、『地獄の黙示録』にも負けない制作にまつわる混乱があったことを示唆している。
アダム・ドライバーをはじめとするキャストは、この映画での経験を肯定的に語っているそうだが、あるスタッフによると、この映画の制作は、「来る日も来る日も、毎週毎週、列車事故が起きているのを見ているようで、そこにいる皆がその列車事故を避けようと懸命に努力している感じだった」そうな。
『メガロポリス』については、上にも書いた構想40年、製作費1億2000万ドルというのがよく言われるが、脚本の書き直し300回というのも気が遠くなる。
シャイア・ラブーフなどコッポラと揉めたキャストもいるし、ミーティングをやるたびにアイデアが変わるというコッポラの即興的な演出と、SF 映画なので必然となる現代のデジタルな映画制作手法とのかみ合わせの悪さに苛立ちを覚えるスタッフもいた。クルーやキャストを待たせたまま、何時間もトレーラーでマリファナを吸い、出てきても指示が意味不明で、時間ばかりが無駄になったこともあったという。
あるクルー曰く、「こんなことを言うとヘンに聞こえるけど、『こいつ映画撮ったことあんのかよ?』と全員が立ち尽くしたことが何度もあった」。
しまいには2022年の12月、16週にわたる撮影の中盤あたりで、視覚効果チームと美術チームのほとんどが解雇されるか自分から辞めたという。
他にもいろいろ書かれているが、この映画制作の現場を『リービング・ラスベガス』で知られるマイク・フィギスがカメラをまわしてメイキングが撮られているようなので、それこそ『ハート・オブ・ダークネス』のようなドキュメンタリーが何年後かに公開されるかもしれない。
とにかく混乱に満ちた制作現場だったというのは分かったが、今のワタシが思うのは、「コッポラの『メガロポリス』が駄作と言われるたびに、むしろ必見の映画だと思えてくる」という記事タイトルがすべてだったりする。
コッポラには素晴らしい映画をいくつもみせてもらった。自分の人生をさらに2時間あまり彼のために差し出すのはなんでもないことだ。