こよなく愛するクリストファー・ウォーケンが主演している映画なのにこれまで観たことがなかった。
ウォーケン主演の映画はいくつもあるが、一番笑顔を見せる映画だろう。彼がすきっ歯を見せてニカっと笑うたび、彼の他の映画での役柄が浮かんで一瞬引きかけるのだが(笑)、一番彼の笑顔を見れる本作は、とても悲しく切ない映画である。
スティーブン・キングの原作は上巻の途中まで読んだところで実家に置きっぱなしになっているが、それでもかなり刈り込んだ映画化であることは分かる。というか、原作の分量からすればそうせざるをえないわけだが、本作の監督をつとめるクローネンバーグは、通常営業時のグロ趣味をおさえ、実にてきぱきと物語を進めていく。
こう書くといかにも「お仕事」的な映画のように聞こえるかもしれないが、本作の主人公の苦悩は、たとえば前々作『スキャナーズ』における超能力を持つ人間の気の毒さにつながるものである。本作がクローネンバーグ本人の脚本ではなく、彼本来の題材とは異なるものの映画として成功しているのは、ヘンなたとえになるが、テリー・ギリアムにとっての『フィッシャー・キング』の成功に近いのかもしれない。
横道にそれたが、本作の魅力は何といってもウォーケンの好演にある。彼が見せるちょっとした笑顔が、運命に翻弄される主人公の哀しみを表現しきっている(その彼と雪景色が重なるときの切なさといったら)。その彼が自分の使命を知り、行動を起こすのだが、キングのことだから、弾をこめる場面などもっとねちっこく書いているはずだし、狙撃の場面ももっと戯画的に書いているのではないか。本作の淡々としたタッチは好きだが、悪役スティルトンの描写も含め、もう少し逸脱したところがあってもよかったかなとは思う。
しかし、ここで政治生命が断たれたかに見えたマーティン・シーンも、後に『ホワイトハウス』で大統領になるのだから見事な復活劇である(違う、違う!)