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ロッキング・オンは投稿雑誌だ!

15年間愛読していたロッキング・オンのバックナンバーを漁って面白い文章を紹介するコーナー「ロック問はず語り」だが、これまでは取り上げる素材がインタビューに偏っていた。

しかし、ロキノンが他のロック雑誌と一線を画したのは、読者からの投稿によってなりたっていたことだろう。もっともワタシも、坂本多聞のインサイドアウトの「ブログをはじめとする参加型メディアの歴史はそれほど古くはない。渋谷陽一氏と橘川幸夫氏らが始められたロッキングオン」という文章を読んで、そうそう、ロキノンといえば投稿原稿だったよなと思い出したのだが。

ワタシが購読し始めた頃は、確か原稿用紙一枚あたり4000円の報酬で本文原稿を募っていた。ワタシも愛読者として一丁書いてやろうか、と思わないでもなかったが、今になってみれば原稿が載ったりしなくてよかったと心から思う。だって、当時は本名と住所が堂々と掲載されていたんだもの。

さて、今回は rockin' on 1991年9月号(表紙はレニー・クラヴィッツ)の投稿原稿を取り上げる。まずは一條和彦氏の文章を紹介したい。

こないだ本屋でロキノンの最新号を手にとったのだが、この当時から現在までずっと本文原稿を書いている人となると、この一條和彦氏と松村雄策氏しかいなくなっているようだ。

余談だが松村雄策氏というと、実はこの号はビートルズ論争が本格化することとなる「小林信彦氏に答える 『ミート・ザ・ビートルズ』の疑問点」が掲載された号である。

話を戻して一條和彦氏だが、文化系トークラジオ Life の黒幕プロデューサーはせがわ氏や孤高の編集王モーリ氏(id:mohri)など彼をリスペクトするメディア関係者は少なくない。

それでは氏の本文原稿「世界の果てで、うんこツンツン ダイナソーJRはズタズタ人生の血管注射である」から、当時高校生だったワタシが強い衝撃を受けた箇所を引用させてもらう。

 彼女の家を出て、飲みに行く。体調がわるいのか、彼女にしては珍しく、仕事がうまく進まないのだのと文句を言っている。僕は彼女の話をききもせず適当に相槌を打っている。それでも彼女は一所懸命に話をする。退屈になったので、このところ練習をしていた究極のアホ顔をして、ふひぇふひぇふひぇと卑屈に笑いながら、"ちんちんだなあ"とか"黄金のふぐり"とか一人言を言う。すると、なぜか彼女は急に泣き出してしまう。
「何で泣くの? 何にも悲しくなんかないじゃないか。ねえ、フェラチオする? フェラチオすると元気になるぞお」。彼女は真っ赤な目でキッと僕を睨んでいる。「そんなので一体誰が元気になるのよ!」と抗議するので「僕のちんぽこ」と答えると、彼女はあきれはてたように僕を一瞥して飲み屋から走って出ていってしまう。

氏の本職が美術史の研究家で、大学の講師などをやられているのを知ったのは実はごく最近で、本当に椅子から転がり落ちそうになるほど驚いたものだ。

ロキノンがこういうキチガイズム溢れる(失礼)文章ばかりだと思われても何なので、シリアスな原稿も紹介しておこう。以下、広瀬陽一氏の「犬死礼賛 ボブ・ディランは本当にあなたを笑ってくれたか?――映画『われに撃つ用意あり』によせて」からの引用である。

 部屋の隅には、回りの家具とまるで不釣り合いな金属製ロッカーが置いてある。中にはイタリア、ベレッタ製の上下二連元折式の散弾銃が収まっている。いわゆるショットガンだ。そして装弾ロッカーには7.5号の散弾がいま現在125発入っている。(中略)誤解なきよう言っておくと、無論、猟銃所持許可証がなければこういうことはできない。たとえ警察官であってもだ。しかし、所持許可を持つ前と後で人格が変わるわけもない。私の日常は相も変わらずだ。ただ、そこには闇がぽっかりと口を開けている。六畳間と硝煙の匂いは対極にあるのではなく、確かに繋がっている。
 以前は、尾羽打ち枯らした後が肝心なんだと思っていた。またそう言い続けてきた。長い下り道を延々と歩き続けた後に、どんな光景が訪れるのかと。しかし、今は全く違う。私の夢は――たった一つの夢は、炎天下の中、爆死で生を閉じること、それだけである。

……………これは本当にロック雑誌なんだろうか。

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