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アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち

アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~(初回生産限定盤) [DVD]

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本作は1984年に西武球場で開かれたフェスの映像で始まるが、当時なぜか兄が録音していたアルフィーオールナイトニッポンの CM でこのフェスの宣伝があり、そこで本作の主人公であるメタルバンドのアンヴィルの名前は聞いたことがあった。が、飽くまで名前だけである。

そのフェスで共演したバンドが軒並みビッグになる中で、また本作でインタビューに答えている面々が賞賛する才能があったにも関わらず、今やバンドはどん詰まりの状態にある。本作でもマネージメントの不備が何度も嘆かれるが、向こうの「ロックスターになろうぜ」本には、最初のページに必ず「有能なマネージャを雇え」と書いているという話を思い出した(本当かは知らないが)。

ロックスターを夢見る若者はいくらでもいるが、大抵ある程度のところで見切りをつける。しかし、アンヴィルはかつて紛れもない有望株であったため、そのときの「15分間の名声」が忘れられず、気がつくと50代になってしまっていた。そして、その夢を未だ諦めていない。

傍から見るとロックバカなリップスと、もう少し超然としたロブという組み合わせが良かったのだと思うが、本作の裏テーマはこの二人の友情であり、彼らを支える家族の物語である。本作ではアンヴィルのアホな歌詞が取り上げられるが、生活人としては二人とも常識人であり、あるいはそれが逆に彼らがロックスターになる妨げになったのかもしれない。

本作はドキュメンタリーなのに『スパイナル・タップ』級の笑いどころの多い映画で(ドラマーの名前が「ロブ・ライナー」なのは偶然としても、レコーディングの場面にあの映画を知ってるとニヤリとなる小ネタがある)、メンバーの日常生活や家族のインタビューに『レスラー』を想起した人も多いだろう。

上に書いた裏テーマである二人の友情が試されるアルバムレコーディング中の喧嘩も、悲劇的というよりやはりどうしようもなく喜劇的なのだが、一人になったときに無防備に目に脅えを浮かべるリップスを笑うことは誰もできないはずだ。

本作のラストのおよそ四半世紀ぶりとなる来日公演の場面は、分かっちゃいても客が入ってるのかハラハラしてしまい、気がつくと彼らの演奏に合わせて軽くではあるがヘッドバンキングしている自分に気付き、あらやだワタシったら、と赤面してしまった。

最後渋谷の街を歩く彼らのバックに流れるナレーションに、キース・リチャーズのような成功者じゃなくても、心底好きなことを精一杯やり倒し、そして希望を失わない者の言葉は、聞き手の心を揺さぶる力があることを痛感し、思わず泣いてしまった。やはり小ネタで笑わせるエンドロールでもその涙は乾かなかった。

This Is Thirteen~夢を諦め切れない男たち~

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