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ドクター・フィールグッド オイル・シティ・コンフィデンシャル

最初この映画のことを知ったときは、Dr. Feelgood の映画を観たい人って何人いるの? と失礼なことを思ったものだが、閉館されるシネ・リーブル博多駅での上映ということで、この映画館への感謝もあり行くことにした。

平日のレイトショーだから3人くらいで観るのかなと思いきや、ゆうに10人は客がいてちょっと驚いた。明らかにワタシよりも若い女性が一人で観ていて、あなたは何故この映画を観ようと思ったのですか? とインタビューしたくなった。

本作の監督はジュリアン・テンプルで、彼が近年ドキュメンタリーの題材としたセックス・ピストルズやクラッシュのジョー・ストラマーといった大物と比べるとドクター・フィールグッドは明らかに知名度は劣るが、さすがジュリアン・テンプル、英国人以外が観ることも配慮した作りになっている。

本作は、最初このバンドを生んだキャンベイ・アイランドについて時間が割かれるが、単にローカルな内輪話でなく、この石油の町が(アンディー・ギルの表現を借りれば)このバンドの神話を語る上で欠かせない。リー・ブリローは、自分が生まれた町をアメリカ南部に重ね合わせていたのだ。

本作ではウィルコ・ジョンソンがその語り手の役割を果たしているが、孤高の名ギタリストにして気難しいイメージがあったので、本作で百面相の勢いで喋りまくり、ギターを弾く彼にはかなり驚かされる。これも撮っているのがテンプルだからか。しかし、彼の顔がアップになるとホラー度があがり、腕利きの殺し屋がホストのトークショーを観ている心持にもなった。

本作を観て改めて思い出すのは、スティングの「ロックバンドというのは思春期的な現象」という言葉である。本作では、バンドは銀行強盗になぞらえられているが、紛れもなく彼らはギャングだった。バンドの瓦解の話もありふれた話に思える。しかし、全英1位を奪取した『Stupidity』(asin:B00000899I)のジャケットでもおなじみの、リーがハーモニカを吹きながら客席を威圧し、彼の隣でパラノイア的な表情を浮かべるウィルコの姿、そしてウィルコが落ち着きなくステージを横切り、ギターをマシンガンのように持つ(まさにギャング!)映像は今なおかっちょよかったね。

バンドがまだレコード会社と未契約のうちに NME の表紙を飾ったことが象徴的だが、彼らが属したパブロックシーンは既存のレコード業界とはオルタナティブな音楽の流通経路となっており、それがロンドンパンクにつながったわけで、テンプルがネアンデルタールパンクとしての彼らについて映画を撮りたかったのもよく分かる気がする。

本作に一つ不満があるとすれば、確か1991年にオリジナルメンバーはリーのみとなったドクター・フィールグッドとウィルコは日本で同じステージに立っている話に触れられていないこと。そのときはうっかり鉢合わせたリーとウィルコの両者の目に火花が散るくらいでステージで共演する雰囲気でなく、ステージでは両バンドとも曲はかぶりまくりの対抗意識丸出しだった。

要は当時はまだお互い激しく意地を張っていたわけだが、それを取材した川崎大助はロキノンに、そんなに仲が悪いのになんで対バン企画に乗るんだという疑問に「それがパブロックだから」という深遠な答えを書いてたっけ。しかし、その数年後にリーはこの世を去るわけで、それからさらに10年以上経ち、ウィルコもユーモアたっぷりにバンドを回顧できるところまで来たわけだ。最後にリー以外のメンバーによるライブ映像も少し出るが、ウィルコのステージアクションがまったく変わってなくて感動した。

Oil City Confidential-Soundtrack

Oil City Confidential-Soundtrack

Oil City Confidential [Original Soundtrack Recording]

Oil City Confidential [Original Soundtrack Recording]

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