八田真行のツイート経由で知った記事だが、Google、Facebook、マイクロソフト、DeepMind、OpenAI といった企業は哲学者を雇うべきと主張する記事である。なんでテック企業に哲学者が必要なのか?
この記事の著者である Tobias Rees は The Transformations of the Human プロジェクトのディレクターを務める人類学者なのだが、その彼から見るとテック企業の人間理解が現実に即していないとのこと。
それはつまり、何をもって人間は人間足るのか、人間のみが持ちうる知性とは何なのかという命題につながる。そこで人工知能(AI)や機械学習について考える場合、人間には知性があるが機械にはないとか、生物のみが意識を持ち思考や理解ができるとか、自然と人工物には明確な区別があるとか決めてかかるのは危ういわけである。むしろ、自然と人工物、人間と機械の連続性が見えてきたのではないか。
昨今の AI の進歩は遠大な哲学的問題であり、AI のラボやテック企業は、人間や我々をとりまく世界について新しい概念を生み出す哲学の研究所を持つべきなんじゃないの、というのが著者の見立てである。
まぁ、上記の著者が手がけるプロジェクトに水を引っ張りたいという思惑が間違いなくあるわけだが、philosophy + art + engineering という見出しなど狙いは分かるし、Google や Facebook に代表されるテック企業のアルゴリズムが我々をどれだけ支配しているかというのも大分知れ渡ったし。
さて、以上の主張は、今週の日本語圏のインターネッツ界隈では、著者の意図とは少しずれた形で受容されるのかもしれない。
そう、東大バイトテロ事件の「大澤昇平」なる超新星のおかげで。
「東大最年少准教授」っていう人のツイートを目にしたのですが、AI時代にあって、いかに歴史学や哲学、倫理学、論理学などが重要かを反面教師的に教えてくれますね。
— nobu akiyama (@nobu_akiyama) November 23, 2019
今回の自称「東大最年少准教授」の発言の何がマズかったかについては、明戸隆浩氏の「東大情報学環大澤昇平氏の差別発言について」を読んでいただくとして、その独善性の可能性を疑う批判性を持つことなくアルゴリズムに思考を委ねてしまう危険性について、当人の意図せず教育的なサンプルになったのではないだろうか。
それにしても、炎上商法の片棒を担ぐ気はないので、最初に文章を紹介した Tobias Rees の新刊を紹介してこのエントリを終わりとする。
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