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ウィキリークスのジュリアン・アサンジの裁判についての本が出ている

テリー・ギリアムの Facebook 投稿で、The Trial of Julian Assange という本が出ているのを知った。

ギリアムは「衝撃的だ。とても感動的でもある。クライムスリラーのような読み応えがあり、まったくもって捨てがたい」と書いているが、ウィキリークスが2010年に Afghan War Diary を公開し、それから間もなくジュリアン・アサンジに性的暴行の容疑がかけられ、ロンドンのエクアドル大使館に逃げ込み7年粘るも2019年にエクアドルはイギリスにアサンジを引き渡し、即時の彼の引き渡しを要求したアメリカが175年の禁固刑を科すと脅したあたりで、国連の拷問に関する特別報告者である著者ニルス・メルツァー(Nils Melzer)が刑務所のアサンジと面会して関わりを持ち、その後の調査を受けて書かれたのが本書になる。

本書はこの10年あまりのジュリアン・アサンジの受難(本書によると、アサンジが長期にわたる精神的拷問を受けていることを証明する医学的証拠も集められたとのこと)を辿りながら、歯止めのない権力がいかに西洋の民主主義と法の支配を消滅させかねないかを訴える本のようだ。

しかし……こうしてジュリアン・アサンジについて書いていて、なにか居心地の悪さを感じるところがある。

もう忘れた人も多いだろうが、2011年には Wikileaks 本が日本でもバンバン出た。かく言うワタシも『日本人が知らないウィキリークス』『ウィキリークスの衝撃 世界を揺るがす機密漏洩の正体』の二冊を献本いただいて読書記録を書いているが、ジュリアン・アサンジの「非公認自伝」の邦訳を最後に、ぱったりとウィキリークスに関する本はなくなってしまう。

yamdas.hatenablog.com

それは何よりジュリアン・アサンジが身動き取れないのが大きかったが、Wikileaks 自体の変質というか、ジュリアン・アサンジの私物化というか(主にヒラリー・クリントン憎しによる)露骨に党派的な姿勢があり、これを書いた2016年の時点で、残念になっちゃったねという認識が広まってしまったというのがある。分裂騒動もあったっけ。

www.dailydot.com

ウクライナ侵攻に対するカウンターとしてロシアに対するハクティビズムの機運が高まっているが、Wikileaks はその受け皿には全然期待できないという記事を見たばかりである。もう駄目かもしれんね。

yamdas.hatenablog.com

Wikileaks が先鞭をつけたリーク・ジャーナリズム自体は、Distributed Denial of Secrets(DDoSecrets)のような後釜も育っており、もう Wikileaks ではなくそっちに期待すべきなのだろう。

だから、ジュリアン・アサンジの裁判についての本と言われても、邦訳は期待できないなと思ってしまうのだが、それはそれとして上記の通り、今とてもきな臭い国際情勢の今だからこそ、彼が(主に)英国、米国から受けた迫害(メルツァー言うところの精神的拷問)についてちゃんと知るべきではないかとも思うのだ。

秘密主義、免責、そして決定的なのは、世間の無関心によって、歯止めのない権力がいかに西洋の民主主義と法の支配を消滅させる危険性があるかを訴えるこの本の主題は、とても今どきだろう。

ブライアン・イーノ先生、エドワード・スノーデン、ダニエル・エルズバーグといった人達が推薦の言葉を寄せている。

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