私的ゴールデンウィーク恒例企画である「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」を今年もやらせてもらう(過去回は「洋書紹介特集」カテゴリから辿れます)。
その前に、今年までは、拙著『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の宣伝を最初にさせてください。
さて、今回はぴったり全30冊の洋書リストとなった。毎年書いていることの繰り返しだが、洋書を紹介してもアフィリエイト収入にはまったくつながらない。それでも、誰かの何かしらの参考になればと思う。
あとここ数年、Amazon リンクの書影画像が一部表示されない現象に悩まされている。昨年は紙の本だけリンクしていたが、考えてみればわずかなりでも買おうとする人がいるとすれば、今どきなら電子書籍が最初の選択肢だよな、と思い直し、紙の本と電子書籍が両方出ている場合は Kindle 版だけリンクさせてもらう。
こちらの調べが足らず、実は既に邦訳が出ていたり、またこれから出るという情報をご存知の方はコメントで教えていただけるとありがたいです。
Kate Darling『The New Breed: What Our History with Animals Reveals about Our Future with Robots』
- ブルース・シュナイアーが予言する「AIがハッカーになり人間社会を攻撃する日」 - YAMDAS現更新履歴
- ロボットと人間が心を交わすために:MITメディアラボ専門研究員 ケイト・ダーリングに訊く | WIRED.jp
ロボット倫理学研究の第一人者である著者の仕事については、サイボウズ式に掲載されたインタビュー記事が詳しい。
既に「AI倫理」の問題が争点となっており、ロボット倫理学の本もこれは邦訳出るだろうと踏んでいたのだが、なかなか出ませんな。
Daniel Graham『An Internet in Your Head: A New Paradigm for How the Brain Works』
「あなたの頭の中のインターネット」というのはキャッチ―なタイトルをつけたものだし、邦訳も近いうちに出ると思ったんだけどねぇ。詳しい情報は公式サイトをあたってください。
Alan C. Logan『The Greatest Hoax on Earth: Catching Truth, While We Can』
少し前に Google 検索から↑のエントリへのアクセスが多くなっており、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のテレビ放送でもあったのかな?
自身の人生の伝説化って、うまくいけばものすごい快感なのかねぇ。詳しくは公式サイトをあたってくだされ。
Matt Blumberg『Startup CXO: A Field Guide to Scaling Up Your Company's Critical Functions and Teams』
フレッド・ウィルソンのブログエントリで知った本について調べていたら、その原著者の前の本の邦訳が出たばかりだったという次第である。
分量がなかなかのため、そう簡単には邦訳は出ないだろうな。
Steven Pearlstein『Moral Capitalism: Why Fairness Won't Make Us Poor』
ワシントンポストのコラムニストであり、ピューリッツァー賞論説部門の受賞経験もある著者の本は、これまで邦訳が出ていないので、これも難しいか。ただ、「道徳的資本主義」という書名といい、「公平さは我々を貧しくはしない」という副題といい、アメリカの資本主義の病み具合を反映している……と書くと怒られてしまうかもしれないが。
エズラ・クラインが推薦の言葉を寄せているが、分かる気がする。
Gary Ginsberg『First Friends: The Powerful, Unsung (And Unelected) People Who Shaped Our Presidents』
ソフトバンクで重役やってた人が出した、しかもビジネス分野と何の関係もなさげな本というのを面白がって取り上げたが、これはアメリカの大統領という一種のアイコンを語る上で面白い着眼点を与えるものではないか。
リンカーン、フランクリン・ルーズベルト、ケネディなど日本でも知名度の高い大統領について書かれているしね。
ジョン・マルコフ(John Markoff)『Whole Earth: The Many Lives of Stewart Brand』
今年、クリストファー・アレグザンダーが亡くなったが、スチュアート・ブランドという人は、IT が本業でないのにその方面に多大な影響を与えたという意味で、アレグザンダーと共通するところがある。
ケビン・ミトニックとツトム・シモムラの戦いも今や昔、ジョン・マルコフも70を過ぎている。これが彼の最後の本になるかもしれない。そして、本書はスチュアート・ブランドの生前に書かれた決定的な伝記本である。これは邦訳が出ないといけない本でしょう。
Casey Rae『Music Copyright: An Essential Guide for the Digital Age』
ワタシもかつて『デジタル音楽の行方』という本を訳した人間として、この本並びにその著者の Casey Rae には興味もあるのだが、この手の仕事に関わる余裕はもうなかろうね。
ドン・タプスコット(Don Tapscott)編『Platform Revolution: Blockchain Technology as the Operating System of the Digital Age』
失礼を承知で書くが、本書がドン・タプスコットの名前が冠せられた最後期の本になるはずだ。その後半生をウィキやブロックチェーンといった技術トピックに飛びついて本を書き、特にブロックチェーンについては三部作(?)書いたのはすごいことだと思う。
Nathan Myhrvold、Francisco Migoya『Modernist Pizza』
このシリーズは分量、値段も驚異としか言いようがないのだが、天才ネイサン・ミアボルドの素晴らしき道楽である。このシリーズについては Modernist Cuisine のサイトを見ていただくのがよいが、このシリーズの新作があるとすれば、次は何がテーマになるんだろうね。
Rob Reich、Mehran Sahami、Jeremy M. Weinstein『System Error: Where Big Tech Went Wrong and How We Can Reboot』
- スタンフォード大の3人の教授がビッグテックがどこで間違ったか、どうやって政治が未来を変えられるかを説く『System Error』 - YAMDAS現更新履歴
- 識者に聞く②「勝者総取り、イノベーションを阻害」: 日本経済新聞
『監視資本主義』という金字塔の後、それならイノベーションを阻害し、民主主義の敵ですらあるビッグテックを相手に、政治は何ができるか、どのように現状を正せるかを論じる段階に来ていることを反映した本なので、これは邦訳が出るべき。
ジョン・ルーリー『The History of Bones: A Memoir』
この本の話は、ジム・ジャームッシュへの強烈な批判を含むという点でショッキングだったが、それ以外の話もなかなか面白そうなので邦訳を読みたい。
思えば、長らくジョン・ルーリーの話題を聞かなかったが、2021年から HBO で Painting with John という番組をやっており、健在ぶりを示していて何よりである。
トム・スタンデージ(Tom Standage)『A Brief History of Motion: From the Wheel to the Car to What Comes Next』
トム・スタンデージというと、The World Ahead 2022(2022年世界はこうなる)も話題になったけど、「車の黄金時代の終焉」をテーマにするこの本は邦訳は今年あたり出るんじゃないですかね。
デヴィッド・グレーバー、David Wengrow『The Dawn of Everything: A New History of Humanity』
「邦訳が待ちきれない! 2021年に世界で刊行された『WIRED』日本版注目の本10選」にもトップに入っており、これは放っておいても邦訳が出る本だが、ページ数が尋常ではないので、出るとしても来年以降でしょうな。
艾未未『1000 Years of Joys and Sorrows: A Memoir』
そもそも、今アイ・ウェイウェイはどこでどういう生活をしているのだろうな。またそうした意味で、この本を知る情報源となったエドワード・スノーデンが、ロシアによるウクライナ侵攻開始以降、完全に沈黙しているように見えるのもなんというか心配になる……。
サンジェイ・グプタ、クリスティン・ロバーグ『World War C: Lessons from the Covid-19 Pandemic and How to Prepare for the Next One』
正直、この本が翻訳されるまでコロナ本の需要は続かないかなとも思うが、調べてみたらサンジェイ・グプタの本は、『SHARP BRAIN たった12週間で天才脳を養う方法 エミー賞受賞、CNN医療など各界で大活躍の脳神経外科医が教える、記憶力・想像力を引き出し、脳を活性化させる画期的メソッド!』(asin:4866515236)が来月出るのを知った……って、いくらなんでも副題が長すぎるだろ!!
Saul Griffith『Electrify: An Optimist's Playbook for Our Clean Energy Future』
この本についてブログで取り上げたところ、すぐに某社の編集者からメールをいただいたのだけど、邦訳の話が順調に進んでいることを期待したいところである。
ところで、ロシアによるウクライナ侵攻は、この本の主張にどういう影響を与えるのだろうか。
Michelle Zauner(ジャパニーズ・ブレックファスト)『Crying in H Mart: A Memoir』
ジャパニーズ・ブレックファストとして昨年の『Jubilee』でブレイクしたと言ってよいと思うが、この回顧録もニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに載るほど売れ、映画化決定とはすごいねぇ。
なお、書名の H Mart とは、全米に展開する韓国系のスーパーマーケットチェーンのこと。この本の刊行を受けて、コラボレーション企画のインタビュー動画も公開されている。
Shannon Mattern『A City Is Not a Computer: Other Urban Intelligences』
「都市はコンピュータではない」という書名は、上で取り上げている「我々の脳はコンピュータよりもインターネットに近い」話も連想したし、今年亡くなったクリストファー・アレグザンダー『都市はツリーではない』(asin:430605263X)も連想させるものがあり、またブログにも書いたジェイン・ジェイコブズによる都市の多様性の話への接続など、とても広がりがありそうで面白そうなのよね。
Nicole Perlroth『This Is How They Tell Me the World Ends: The Cyberweapons Arms Race』
本についての詳しい情報は公式サイトをあたっていただくとして、これは邦訳が出るべき本でしょう。その証拠に、アメリカと本格的にサイバー軍拡競争を行っている中国では、昨年のうちに既に中国語版(asin:6263100680)が出ているくらいなのだから。
メル・ブルックス『All About Me!: My Remarkable Life in Show Business』
メル・ブルックスが95歳で自伝を書いたというのも驚いたが、さすがに映画監督としてのキャリアは終わっているものの、近年の映画でも『トイ・ストーリー4』など声優をいくつもやっており、今年は『メル・ブルックス/珍説世界史PARTI』の続編を Hulu で手がけるなど、まだまだ彼は現役なのである。すごいねぇ。
Shermin Voshmgir『Token Economy: How the Web3 reinvents the Internet』
ブログにも書いたようにこの本自体はオンライン公開されており、その日本語版翻訳に期待という感じだが、電子書籍オンリーでないもので Web3 を書名に冠したものになると國光宏尚『メタバースとWeb3』(asin:B09W9B5Q6H)、雑誌では『WIRED VOL.44』(asin:B09VC4YQQW)くらいしかまだないみたい。
Tom Taulli『Modern Mainframe Development: COBOL, Databases, and Next-Generation Approaches』
オライリーからメインフレーム本というのにまずのけぞったが、それもモダンなメインフレーム開発を謳う本というのに、そういう余地がメインフレームにあるのかと驚いた次第。
昨年、『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』(asin:B084QBQDZ3)という本が話題となったが、果たして日本には「モダンなメインフレーム開発」の本の需要はあるのだろうか?
Aaron Perzanowski『The Right to Repair: Reclaiming the Things We Own』
「修理する権利」については、最近でも欧州議会で「修理する権利」の改善に関する提案が採択されたり、「修理する権利」に極めて後ろ向きと見られていた Apple の iPhone セルフ修理プログラムが米国で開始されたり、とコンスタントに話題になっており、この本の邦訳も期待されるのだが、さすがに難しいか。
ジミー・ソニ(Jimmy Soni)『The Founders: The Story of Paypal and the Entrepreneurs Who Shaped Silicon Valley』
マックス・チャフキン『The Contrarian』はここで取り上げなくても邦訳出るかなと思うのでこっちを挙げてみた。
そういえば、ピーター・ティールは2月にMeta の取締役を退任したと思ったら、「暗号通貨の敵はバフェット」とウォーレン・バフェットを名指しで敵認定したり、イーロン・マスクはご存知の通り Twitter を買収したりと、ペイパルマフィアは相変わらずの大暴れぶりである。
Sahil Lavingia『The Minimalist Entrepreneur: How Great Founders Do More with Less』
デカいことをブチ上げる起業本もいいのだけど、「ミニマリスト起業家」というコンセプトは、我々日本人に割としっくりくる話だと思うのである。ブログエントリにも書いたけど、今こそ日本のウェブメディアは Sahil Lavingia に取材に行くといいんじゃないでしょうか。
Nils Melzer『The Trial of Julian Assange: A Story of Persecution』
ウィキリークスにしろジュリアン・アサンジにしろ、ニュースバリューは一時期の比でもはやないのは仕方ないとして、少し前にとうとうアサンジの米国への移送を英国の英裁判所が命じている。上にも書いた、エドワード・スノーデンの沈黙とあわせ、実は恐ろしいことになっているのを危惧するものである。
リッキー・リー・ジョーンズ『Last Chance Texaco: Chronicles of an American Troubadour』
少し前に「小林武史×スガ シカオが「本当にいいアルバム」とリッキー・リー・ジョーンズの良さを語り合う」という記事を見かけたが、スガシカオはリッキー・リー・ジョーンズのファンだったのか。日本でも彼女の再評価がされ、この回顧録の邦訳が出るといいのだが。
Andy Greenberg『Tracers in the Dark: The Global Hunt for the Crime Lords of Cryptocurrency』
以下は過去にブログで紹介していない本になる(今回は2冊だけ)。既に Wired にかなーーり長く抜粋されているので、今回のリストに含めることにした。が、この本の発売は半年以上先なんだけどね!
著者の本はこれまでこのブログでも何度か取り上げているが(その1、その2)、内部告発、サイバー犯罪(戦争)をテーマとする本をこれまで書いてきた人である(参考:WIRED.jp で翻訳されている彼の記事一覧)。前作『Sandworm』についてはカタパルトスープレックスを参照くだされ。
新刊は捜査機関がビットコインの匿名性を破り、世界的な児童ポルノの犯罪ネットワークを破壊した話を扱っている。なかなか内容がハードなので、これも邦訳は難しいかなぁ。
Barrett Brown『My Glorious Defeats: Hacktivist, Narcissist, Anonymous』
著者のバレット・ブラウンは Anonymous の協力者(自称スポークスマン)として知られ、Anonymous のドキュメンタリー映画 We Are Legion にも出演している。が、およそ10年前に FBI 捜査官(関係ないが、名前はロバート・スミス)を脅迫した容疑などで逮捕され、2017年に4年間の刑期を終えて出所している。
Intercept に収監中に(!)書いた一連の記事でナショナル・マガジン・アウォードを受賞したジャーナリストでもあるが、過去にドラッグの濫用で知られ、メンタルヘルスの問題もあり、何かと問題の多い人物には違いない(Twitter アカウントは永久 Ban されている)。それでも、Anonymous やハクティズムについて知る上で、彼の回顧録は読む価値があると思うわけである。
……が、およそ1年前に今度は英国で逮捕されてしまった。現在まで彼の本の出版はキャンセルされていないのだが、何せ刊行が来年1月まで伸びてしまったので、忘れないうちに今回のリストに追加した次第である。
それでは皆さん、ごきげんよう。
次回予告。
I travelled to a mystical time zone
And I missed my bed
And I soon came home
(The Smiths, "A Rush And A Push And The Land Is Ours")
[追記]:
以下、ここで取り上げた本の邦訳が出たのを紹介するエントリをはりつけておく。