イェール大学教授の歴史学者ティモシー・スナイダーが単刀直入に「世界にウクライナの勝利が必要な理由」を15個挙げている。
この期に及んで「ロシアが負けることは考えられない」とのたまう人もいるが、なんでウクライナがロシアに勝利しなければならないのか、その基本に立ち返るのによいかと思うので、ざっと要約しておく。気になる人は原文を読んでくだされ。
- ロシアが占領下で行う大量虐殺の残虐行為と止めるため
- ある国が他国を侵略して、領土を併合してはならないという国際的な法秩序を維持するため
- 帝国の時代を終わらせるため。その転機はロシアが敗北してはじめて起こる
- 欧州諸国が平和的に協力できるという欧州連合の平和事業を守るため
- 抑圧的な国内政治に囚われているロシアで法の支配を行うチャンスを与えるため
- 専制君主の威信を弱めるため。プーチンをモデルに権威主義に向かうトレンドは、民主主義国家によって逆転可能
- 我々全員が民主主義を守るために行動することで、民主主義がより良いシステムであることを我々に思い出させるため
- ヨーロッパにおける大規模戦争の脅威を消すため
- ウクライナの勝利が、中国に台湾進攻が失敗に終わる可能性が高いことを教え、アジアにおける大規模な戦争の脅威を消すため
- 核兵器の拡散を防ぐため。核兵器を放棄したウクライナが負ければ、核兵器を作れる国はそうしなければならないと思うようになる
- 核戦争のリスクを減らすため
- 将来の資源戦争を回避するため。戦争犯罪に関係なく、ロシアのワグネルグループ(民間軍事会社)は暴力的に鉱物資源を押収している
- 食糧供給を保証して将来の飢餓を防ぐため、ウクライナは食料供給国である
- 化石燃料からの移行を加速させるため
- 自由の価値を確かめるため。ウクライナの人たちは、我々にそれを思い出させてくれる
ティモシー・スナイダーというと、少し前に「西欧諸国はロシア同様、ウクライナの存在を認めていなかった」がクーリエ・ジャポンに掲載されているが、彼の歴史家としての近年の仕事が、ウクライナ情勢を考えるのに見事にヒットして注目を集めている。
2020年代に邦訳が刊行された仕事に限っても、まずはロシアのクリミア侵攻をテーマとする『自由なき世界 フェイクデモクラシーと新たなファシズム』は、これの原書を塹壕でウクライナ兵が読んでいる写真が話題になったばかり。
そして2021年には、新型コロナウイルスによるパンデミックからアメリカの危機を解き明かす『アメリカの病 パンデミックが暴く自由と連帯の危機』と20世紀東欧史を描きだす『秘密の戦争 共産主義と東欧の20世紀』が出ている。
そして、2022年には『ウクライナ危機後の世界』における語り手の一人として選ばれているが、当然の人選といえるだろう。
そしてとどめは、ウクライナ、ポーランド、ベラルーシ、バルト三国がヒトラーとスターリンにより蹂躙された大量虐殺をテーマとする出世作『ブラッドランド』の文庫版が昨年秋に出ている。
これだけ現在のウクライナ情勢にクリティカルヒットする著書を出している歴史学者も珍しいのではないか。
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