実はワタシは『チェンソーマン』すら読んだことがなかったりするのだが(アニメも未見)、『ルックバック』に関しては、ネットに公開されたのを読んで、感じ入るものがあった。
しかし、これが映画になるとは思わなかった。果たしてどんなものかと思っていたら、観測範囲で強く推す声をいくつか見かけたので、上映時間の短さは気になりながらも観に行った。
結論を書くと、『ルックバック』としか言いようがなかった。『ルックバック』のコアを何ら損なうことなく、文句なしにひとつの作品になっている(「ODS作品」という言葉を初めて知った)。藤野がずっと嫉妬と敗北感を感じていた京本から思いもよらぬ形で承認欲求を満たされ、雨の中をスキップする場面の輝き!
本作の主人公の藤野と京本は言うまでもなく原作者の分身に違いないが、「なんで描くか?」、「描いてなんになる?」という問いに対するある種の「業」、そしてその継続が本作の中心にある。
原作が京都アニメーション放火殺人事件に触発されて書かれたのは言うまでもないが、その描き方について批判もあり、一度編集部によってそのあたりは修正されたと記憶する。しかし、本作では当初の設定を踏襲している。ワタシはこれは端的に正しいと思う。というか、本作で描かれる表現者の「業」には、嫉妬など暴虐的でドス黒いものも含まれるというのこそ本作は描いているのだから。
明らかにアマンド・ノックスの事件にインスパイアされたおそるべき傑作『スティルウォーター』を少し前に観たからというのもあるが、本作における設定についての決断をワタシは支持する。