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ジョン・クリーズ『フォルティ・タワーズ』の(一時的な)取り下げにポリコレの行き過ぎを憂う

rockinon.com

モンティ・パイソンの「空飛ぶモンティ・パイソン」は、実は21世紀になってから本国の BBC で一度も再放送されていないという話がある。最近では「リトル・ブリテン」の配信中止もニュースになったが、ブラックユーモアには厳しい時代なのは間違いない。

しかし、Black Lives Matter 抗議デモの影響で、そのパイソンのジョン・クリーズの代表作である「フォルティ・タワーズ」がストリーミング・サービスから取り下げられるってギャグにしか思えない。この言葉を使うと反発もくらうだろうが、こんな取り下げは「文化大革命」に擬せられても仕方ないんじゃないか?

ワタシも Black Lives Matter の重要性は十分に認めるし、その意義に異論はない。しかし、ワタシはコリン・ジョイスが書くような違和感も理解できるのだ。

フロイド殺害(それ自体が衝撃的な事件だ)が明らかに、憂慮すべき事態の一端として起こったアメリカで、激しい怒りが生じて当然だということは、僕も異論はない。でも、これはイギリスでは起こっていないし、イギリスの警察はミネアポリス市警ともニューヨーク市警とも違う。同様の事件が国内で起こっていない以上、イギリスの抗議運動は、許し難い状況に対して怒りが爆発した、というより世界的な流行に乗ってみた、というように見える。

イギリス版「人種差別抗議デモ」への疑問 | コリン・ジョイス | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

2つ目に、反人種差別運動に対して少しでも煩わしさを感じることは、すなわち人種差別主義者と共犯である、とみなされてしまうだけに、反対意見は表明しにくい。イギリス人の大多数がこの抗議運動にギョッとしていることはほぼ間違いないと思うが、「隠れ人種差別主義者だ」とか「白人の特権に安住している」などと見られるのが嫌で、多くの人が意見を口にできずにいる。当局が抗議運動を禁止せず、社会的距離の順守や大規模集会の禁止といった規制に大幅に違反しても警察が黙認した理由も、ここにある。彼らは人種差別主義者との汚名を着せられるのを恐れていたのだ。

イギリス版「人種差別抗議デモ」への疑問 | コリン・ジョイス | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

このコリン・ジョイスの文章については、イギリスの黒人の歴史を正しく反映していないという批判もあるかもしれない。それでも、この「反対意見の表明しにくさ」を背景にポリティカルコレクトネスが行き過ぎるのをどうしてもワタシは恐れてしまう。

しかし、この調子だと、ほとんどの歴史的偉人の銅像が引きずりおろされてしまうんじゃないか?

今回問題となった The Germans については、ワタシも以前ブログで触れている。

この回は、頭を打って波長がおかしくなった(ジョン・クリーズ演じる)主人公のホテルオーナーのバジル・フォルティーが、ドイツ人の客を迎えるにあたり、従業員に「戦争の話はするな!」と言いながら、ナチスの侵略行為についてどうしても言及してしまい、ドイツ人客を泣かせるは怒らせるは、しまいにはアドルフ・ヒトラーの真似をやらかし(ジョン・クリーズは「空飛ぶモンティ・パイソン」でも一度ヒトラーに扮している)、そのまま「ばか歩き」を披露するというメチャクチャな展開で、これを見ると今でもイギリスの年輩者は死ぬほど笑うのである。

英国のEU離脱とモンティ・パイソン(ジョン・クリーズ) - YAMDAS現更新履歴

これは英国が EU 離脱を決めたときに書いたもので、もう4年になるんやね……。前述のような事情もあり、モンティ・パイソンのブラックな笑いには逆風が吹くこともあり、現在までジョン・クリーズテリー・ギリアムの発言はときどき炎上してきた。しかし、まさか「フォルティ・タワーズ」で取り下げ騒動が起こるとは。

variety.com

結局、ジョン・クリーズの抗議もあってか、問題の回の取り下げは撤回されたようである。

それでは、問題の The Germans のクライマックスのシーンの動画を今回もはっておこう。言っておくが、これは BBCBBC Comedy Greats チャンネルで公開しているものなので、堂々と紹介できるのである。

なお、そのジョン・クリーズは、新しいツアーをずばり「私が死ぬ前に会える最後のチャンス(Last Time To See Me Before I Die)」と銘打っていて笑ってしまった。背景の山は天使の羽を模してるだろ、これ。


この人、三度目の離婚で財産分与をがっぽりやられた後、「離婚手当ツアー」と銘打ったショーをやっており、このパイソンらしい身も蓋もないブラックさは健在とは言える。

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