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ブレイディみかこさんから新刊『ブロークン・ブリテンに聞け』を恵贈いただいた

ブレイディみかこさんから新刊『ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain』を恵贈いただいた。

ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain

ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain

彼女のブログで新刊の話を知り、おっさんであるワタシにとってもしみじみ良い本だった前作『ワイルドサイドをほっつき歩け ――ハマータウンのおっさんたち』(asin:B0897HL8SD)と同じく Kindle 版をポチっとやろうとしたのだが、Amazon アフィリエイトの次のギフト券を待とうや、と躊躇したのが功を奏した形である(笑)。ありがとうございます。

本作は文芸誌「群像」で2018年から今年まで足かけ3年間続いた連載をまとめたもので、なかなか前に進まなかったブレグジット(この話題については、やはり同じ著者の『労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱』(asin:4334043186)を読むことを今も出発点としてお勧めしたい)をはじめとする英国の政治問題が中心となり、他にも英国王室などの時事問題が主要な題材になり、日本にいるワタシが読んで距離を感じたどうしよう、と「はじめに」を読んで少し不安を覚えたが、それは杞憂だった。

 つまり、主流派の考え方に疑問を投げかけ、体制に反逆するアウトサイダーだったはずのレフトが、いまや主流派そのものというか、ふつうに学校で教えていることを主張するのにいまだパンク気取りで奇抜な方法を用いているから「クール」どころか「むかつく」と言われてしまうのである。だから美術館からいきなり女性差別的な絵を撤去するというゲリラ的な行為を行っても、「こうした作品は風紀的に好ましくない」か何か言ってエリート校の壁からヌード絵画を外す厳格な校長先生みたいに見えて人々の怒りを買うのだ。(pp.23-24)

長く引用してしまったが、当然ながら英国と日本が抱える問題が同じということはない。明らかに距離がある問題、一種あべこべになったところ、しかし、微妙に共振する話となるとグッと面白くなる。

本書の著者はかつて『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝』という本を書いているが、その原動力には「レフト」の旗色の悪さへの反骨があったはずだ。当時も今も英国は保守党政権であり、その後のコービン旋風も過去の話で、その点に変わりはない。が、一方で社会規範はおおざっぱに見れば「レフト」的価値観が主流派となり、政治的に正しいとされるところまできている。そうした状況が日本とまったく同じということはない。しかし、その「むかつく」感じはまた違った形で日本に住む人間にも確実に伝わるのである。

そういえば本書では、『ブレグジット EU離脱』(asin:B07XRDCQJ3)において(ベネディクト・カンバーバッチ演じる)ドミニク・カミングスが、離脱派キャンペーンの天才的スローガン「TAKE BACK CONTROL(コントロールを取り戻そう)」を思いつくところが描写されているが、日本にいるワタシとしては、安倍晋三が使った「日本を、取り戻す。」というキャッチコピーの(正当性はまた別の)優秀さをどうしても連想してしまうのである。

著者の政治的な立ち位置は紛れもなくレフトであり、反緊縮論者として一貫しているが、上で引用した話を含めて、それがよしとする価値観に無批判に追従しないところが本書に奥行きを加えており、ワタシのような著者の長年の読者には痛快さというか、らしさを感じさせてくれる。

 ある種の懲罰性のあるフェミニズムは、緊縮の時代の女性たちをさらに生きにくくしているのではないか。元セックスワーカーだったという職員の言葉が印象に残っている。
「今必要なのは、イデオロギーじゃなくて、シスターフッドだよね」(p.78)

 これを奴隷根性と大杉栄は呼んだが、しかしそれはグレーバーの言う「思いやりとソリダリティの精神」と表裏一体のものだ。わがままになれ、だけでは緊縮マインドの岩盤は突き崩せないのはこのせいだ。それに、つい他人を思いやってしまうケア労働者の習性を否定すれば、世の中は地獄絵図のようになってしまう側面もある。(pp.115-116)

 ロキは言葉を使って、自分を苦しめているものの正体を突き止めるために思考し、文章を書く。そしてその正体は彼自身が若い頃から信じてきた左派の理念――貧困は政治・社会システムの欠陥のせいであるという考え――ではないかと思い至る。(p.166)

本書を読むと、『負債論』などの仕事が著者のインスピレーション元となり、『ブルシット・ジョブ』が遺作となってしまったデヴィッド・グレーバーの死がどうしても悔やまれる。これから彼の思想が彼自身によって更新されない、という当たり前の事実が大きな損失に思えてしまうのだ。

あと本書では、政治問題と比べて軽い話題に見られるだろう UK コメディについての文章に、特に彼女のブログを愛読していたときの面白さを思い出した。ワタシも今年のはじめに Netflix『Giri / Haji』を観て、この人はうまいなと思った男娼役のウィル・シャープが、「ダークよりもさらに暗い、真っ黒な笑い」をやってたというのに興味をひいた(それも Netflix で観れるようにならんものか)。調べてみると、彼の次作はベネディクト・カンバーバッチ主演のルイス・ウェインについての映画の監督・脚本みたいで、これは大きなステップアップになるかもしれない。

さて、ここからは純然たるワタシの宣伝なのだけど(そのためにブログやってるんでね!)、本書の著者に「ボーナストラックの長編エッセイに泣きました」と言わしめた『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』もよろしくお願いします。

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