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ソイレントの共同創業者が説く「シリコンバレーを没落させた3つの嘘」

www.robrhinehart.com

Yuta Kashino さんのツイート経由で知ったブログエントリだが、その著者は Soylent の共同創業者である起業家のロブ・ラインハートである。Soylent(の初期)については、2016年の邦訳が出た以下の記事が参考になる。

wired.jp

この記事にもあるように彼はYコンビネーターからの投資を受けた経験がある人だが、文章のテーマはズバリ「シリコンバレーの没落」である。これがなんとも面白い。しかし、とても長い。書き出しはこんな感じだ。

私はシリコンバレーの没落を覚えている。私もそこにいた。ローマ帝国が崩壊したずっと後もなお人々はローマに住んでおり、シリコンバレーにも人は住み、働き続けている。しかし、それは同じではない。イノベーション精神は失われてしまった。それはしばらくの間そこにあった。私はそれを見た。そして私はそれが抑圧され、地下に押しやられ、しまいには失われるのも見た。人々はこれから何年も、何が起こり、それがいかに滅びたか、なぜ滅びたかを語り、疑問に思うだろう。人々は何年もそれを立て直そう、さもなくば他のどこかで再現しようと試みるだろうが、それはすべきではない。次のシリコンバレーは、かつてのシリコンバレーとは同じではないだろう。

語り口がなんとも軽やかで楽しい。でも、長すぎるんだよ!

思うに、歴史家は2012年をシリコンバレーが死んだ年だと記録するだろう。スティーブ・ジョブズは2011年に死んだ。ポール・グレアムは2014年に Y Combinator から離れることを発表したが、2012年に会ったとき、彼は既に離脱を計画していた。私ならシリコンバレーが死んだ正確な日付を2012年11月7日とするが、それはダスティン・カーティスが悪名高い「The Best」というブログ投稿を公開した日である。

あれがその日だった。あれこそサンフランシスコの自由奔放な創造性とその受容が、尊大な唯物論者の俗物どもに決定的に乗っ取られてしまった日だった。最初あの文章を読んだとき、私はそれをよくできた風刺だと思った。そしてヤツが真面目だと気づくと、私自身もシリコンバレーを去ると決めた。ダスティンとその同類どもは、スティーブ・ジョブズのメッセージを完全に取り違えていた。スティーブ・ジョブズは抑圧を嫌った。彼は、デザインとテクノロジーが人々を抑圧から解放することを望んだ。しかし、テック産業は強力な抑圧兵器と化していたのだ。

こういう感じでサラサラと訳してしまいたくなる。しかし、長すぎる。

dcurt.is

やり玉にあがっているダスティン・カーティスのブログエントリである。もちろん彼も言い分はあるだろうし、例えばスティーブ・ジョブズの評価は、ワタシなど疑問に感じるところもある。他にも読む人それぞれで異論反論が出るだろう。

この文章の本題は、シリコンバレーの没落の原因となった3つの嘘を糾弾すること、と書いてよいのかな。

シリコンバレーの没落は、その黎明期と違って、ひどい職場環境や生活様式を無理強いし、役立たずで、見当違いで、時に有害ですらある製品を世界中に押し付けだしたことに一部原因がある。しかし主には、すべてが一連の嘘の上に成り立っていたから没落したのだ。そして人々も次第にその真実に気づき始めた。

イノベーティブであるにはシリコンバレーに住まなくてはならないというのが一番目の嘘である。イノベーションはいたるところにある、というのが本当のところだ。シリコンバレーイノベーションを独占しているのではないし、かつてだってそうだった。

あらゆるイノベーションはある特定のやり方に沿わなければならない、というのが二番目の嘘だ。イノベーションとは、ソフトウェアを売りこみ、ベンチャーキャピタルから資金調達し、バイラルの波に乗り、がんのように広がり、ユニコーンになり、豪華でクリエイティブなオフィススペースを借り、しまいには広告会社に買収されるシリコンバレーをベースとするデラウェア州登記の持株会社のことだと皆が考えていた。正しくは、あらゆる形態、形式、規模のイノベーションが存在する。科学にもイノベーションはある。ビジネスにもイノベーションはある。ストーリーテリングにもイノベーションはある。政治や教会や非営利団体や家庭や家族やコミュニティにだってイノベーションはある。本当のところ、「ユニコーン」なんてものはリアルじゃない。見境なく増殖するウイルスやがんは悪いものだ。急速、直線的に、しかも継続的に成長する企業などないというのが正しい。どんな企業もサイクルを繰り返す。イノベーションに集中していれば、その会社は上向きのサイクルになる。気を抜けば、会社は沈んでしまう。

三番目の、そして最後の嘘は、シリコンバレーが事業を立ち上げ、運営する素晴らしい場所だということ。これほど真実から遠い話はない。シリコンバレーこそ、事業を営むのに世界でもっとも適しておらず、金がかかり、抑圧的な場所のひとつである。

これにも反論が多く寄せられるだろうが、それを含めて興味深い見解である。

Facebook は金を稼いでいるがイノベーションではない。だって Facebook は社交をより良いものにしていないから(むしろ悪くした)。Amazon は(シリコンバレーの企業ではないが)確かにオンラインショッピングをより良いものにしたが、本質的に中間業者の一種であり、時の検証に耐えられない。一方で(シリコンバレーを離れつつある)Tesla は電気自動車をより良いものにしたイノベーションだったし、今もバッテリーや安全性や価格や流通などもろもろを改良することでイノベーティブであり続けようとしている、と著者はキッパリ書いているいるが、これらの評価についても異論が出るかもしれませんな。

ここから話はシリコンバレーの歴史から職場文化や生活様式の話、そしてポール・グレアムをはじめとする Y Combinator 方面の経験をもとにした話題に移る。ラインハートはポール・グレアムのことを、彼ほどの際立ったイノベーティブな投資家はおらず、彼は投資のプロセスそのものを改良したと評価しているが、話はそれだけじゃないので長い原文を読んでくだされ。

そして、最後には Cambrian Genomics の創業者、CEO にしてバイオテクノロジー分野でイノベーションを成し遂げられたはずなのに2015年に31歳の若さで自殺してしまったオースティン・ハインズ、そして2012年に26歳の若さでやはり自殺してしまったアーロン・スワーツ参考1参考2)の話になり、どうしても悲痛なものを感じる。

そうした意味で、この文章はイノベーションを成し遂げられたはずの二人、そしてシリコンバレーそのものに対するレクイエムなのかもしれないが、著者のイノベーション観が最後に書かれている。

非中央集権化の原理は、ブロックチェーンよりもずっと大きなものだ。それはつまり、イノベーションはもはや大学や政府の研究機関やぜいたくなオフィスパークに閉じ込められるものではないということだ。本当のところ、イノベーションはあなたの中にあるのだ。あなたの属するコミュニティの中にある。イノベーティブであるために CEO やベンチャーキャピタリストになる必要はない。イノベーティブなアイデアが、膨大な金を稼ぐ企業に主導されるとは限らない。優れたアイデアを持つ人を既に知っているかもしれないし、あなた自身がそうしたものを持っているかもしれない。ならばなんで優れたアイデアを持つ人に投資しない? なんで自分自身に投資しない?

おっと、このままどんどん訳したくなるが、長いので止めておこう。言っておくが、これだけ訳しても全体のわずかだから。

こういうエントリを書くと、WirelessWire News での連載はワタシにとってありがたい場所だったかと再認識するのだけど、もうとっくに止めちゃったのでねぇ。

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