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夜明けのすべて

三宅唱監督の名前は、前作『ケイコ 目を澄ませて』がワタシの観測範囲で評判で知ったが、残念ながら都合がつかず観に行けなかった。

たまたま宇野維正の「映画のことは監督に訊け」を読み(ここでの三宅唱監督の返しが妙に可笑しい)、本作がその新作なのを知って、これ幸いと観に行った。

PMS月経前症候群)のために感情を制御できなくて、新卒で入った会社で早々にやらかしてしまい逃げるように退職した数年後、主人公は理解ある職場で働いているが、それでも同じ職場の社員に配るお土産を欠かさない、という描写に最初に掴まれるものがあった。山添のパニック障害に気づいた主人公がかける言葉が、「お互い……ってなんですか」と素で拒絶されるところから、その二人が徐々にお互いのために何かできるのではないかと気持ちを通わせていくその一歩一歩が丁寧に描かれている。

本作では主人公二人を照らす光がよく撮られており、それを観ているだけでこちらの心を明澄にしてくれるところがある。山添が自転車を走らせる描写が長く撮られており、ワタシなどこれは何かのフラグかと身構えてしまったくらいだが、これはこちらのマインドセットがおかしいだけである。

本作には悪人がほぼまったく登場しない。しかし、主人公二人の日常の描写にしろ、それ以外も例えばグリーフケアの場面にしても甘さに流れておらず、主人公らの職場の社長、山添の元職場の上司、みんな良かった。

本作のクライマックスは移動式プラネタリウムの場面なのだけど、それで主人公二人の人生が変わるとか劇的な何かがあるわけでは当然ながら、ない。主人公のその後、そして山添のモノローグを含め、大仰さがまったくないところもよかった。それなのに、観終わったときに心に確かなものが満ちる映画だった。

あと本作ではりょうさん(なぜかさんづけ)が主人公の母親役なのに個人的にショックを受けてしまったのだが(笑)、かっこいい大人の女性を演じてきた彼女がリハビリに苦労する役をやるのがポイントなのだろう。調べてみたら彼女はワタシと同じ年生まれなのね。もうワタシもそちら側なのな。

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