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ジョジョ・ラビット

『リチャード・ジュエル』と本作のどちらを観に行くか悩みに悩んだ末本作にしたのだが、これが実にチャーミングな映画でよくできていて、『リチャード・ジュエル』を観ればよかったと後悔した。

なぜか? この題材でチャーミングな映画なんか観たくなかったという心持ちになったからである。本作がニクいほどによくできていたのでなおさらそう思った。

本作は、ビートルズの「抱きしめたい」のドイツ語版で始まる。これは歴史上の人物としてではなく、主人公のイマジナリーフレンドとして本作の主要な登場人物であるアドルフ・ヒトラーが、それこそビートルズのような人気を誇っていたことを示唆しているのだが、本作はそうしたポップさに満ちている。

それは登場人物にもあらわれている。ほとんど悪役らしい悪役がいない。いたとしてもガキ大将レベルであったり、スティーヴン・マーチャント演じるゲシュタポも悪辣さでなく、その存在の滑稽さで飽くまでコメディに奉仕する役柄である。サム・ロックウェル演じる大尉からして、出てきた途端に有害な人物でないのがありありとしている。

かくも本作はポップでチャーミングなのだ。主人公が顔に負う傷も客を引かせるようなレベルでなく(それって、劇中の描写を考えておかしくない?)、飽くまで彼はチャーミングだ。戦時の暗さを微塵も感じさせない主人公の母親の思考や佇まいは、まるで現代の女性のそれである。本作を日本で誉めている人は、本作の舞台を日本に置き換え、彼女のような登場人物がいたら、それをリアルだと称えるだろうか?

それにしても本作はよくできている。主人公の母親が匿うユダヤ人の少女の存在は書き割りの如くだが、主人公と彼女の関わりがそれに膨らみをもたらしている。主人公の親友役のデブもいい味出している。それにワタシは本作について何度もポップでチャーミングと書くが、戦時を描く映画として持つべき苦さもちゃんと持っている。主人公の母親役のスカーレット・ヨハンソンも良いのだけど、だらしなくとぼけた感じのサム・ロックウェルが実に良くて、彼がおいしいところをもっていく。『スリー・ビルボード』にはさすがに及ばないが、『バイス』より本作のほうがよほどアカデミー賞助演男優賞ノミネートにふさわしいと思ったくらい。

あとスティーヴン・マーチャント、『LOGAN/ローガン』のときは驚いたものだが、もう彼は怪優枠でハリウッド映画に出演して違和感がないし、ワタシは観れていないのだが、監督として『ファイティング・ファミリー』のヒットも飛ばしている。すごいじゃないか。

さて、ビートルズとともに始まった本作は、最後にあの曲とともに終わる。それを感動的と評しても良いだろう……が、ワタシはどうしても文脈的におかしい思ってしまう。本作に感じる危うさを象徴するような曲の使い方だった。

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