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肥満率を低く抑える日本の食文化についてのヨハン・ハリの取材記事(がなんだかなー)

time.com

「オゼンピックが必要ない国」というタイトルになんじゃそりゃと思ったが、オゼンピックとは2型糖尿病の治療薬で、この記事は2023年3月に日本の医療当局が肥満症の治療薬ウゴービを認可した話から始まる。これはオゼンピックやウゴービを製造するノボ・ノルディスク社にとって、一見素晴らしいニュースに思えるが、実はあまり意味がないと書く。なぜか?

アメリカ人の42%が肥満であるのに対し、日本人の肥満率は4.5%に過ぎないからだ。つまり、「オゼンピックが必要ない国」というタイトルは日本を指してるんですね。

この記事の著者のヨハン・ハリは、『麻薬と人間 100年の物語』(asin:4861827922)、そして今年邦訳が出た『うつ病 隠された真実: 逃れるための本当の方法』(asin:4861828430)で知られる書き手だが、その彼自身数か月前からオゼンピックを服用しており、そして彼の先月出た新刊 Magic Pill のために取材を重ねた結果、オゼンピックが引き起こすという説がある鬱や自殺願望などの副作用の話に気に病んだという。

彼は日本に赴き、なんで日本人の肥満率が低いのかを探った。日本人は遺伝子的に運が良いのだろうというのが最初の見立てだったが、19世紀後半から20世紀初頭にかけて日本からハワイに移住した日系ハワイアンは遺伝子的に日本人と近いはずだが、移住から100年以上経ち、日系ハワイアンの肥満率は日本人の4倍である。

そして、彼はその秘密を日本の食文化に見出す……って、あのさ、日本食の欧米で受容されるイメージを知らなかったわけじゃないだろ、そんなの日本に来る前からあらかた予想できたことじゃないか? とワタシなど思ってしまうのだが、「三角食べ」や「腹八分目」を紹介した後でヨハン・ハリはこう書いている。

私は旅行中、このような日本食だけを食べたが、三日目には希望と恥辱が奇妙に入り混じった経験をするようになった。自分がより健康で体重が軽くなったと感じたが、こうも思った――日本人は、何千年もかけて食べ物との、我々にはとうてい輸入できない、まったく異なる関係を築いてきたのだ、と。

何を大げさな……と思ったが、「日本の食文化のほとんどが、実はごく最近に発明されたものだと知って私は驚いた」という文章が続いてどっちらけである。おいおい!

その後も日本の食文化の取材が続くのだが、小学校で10歳の女の子が「ブロッコリーなど緑黄色野菜が好き」と言ったのを聞き、通訳に「これジョークだよね? オレ、かつがれてんのかな?」と思わず口走り、10歳のガキがブロッコリー好きってありえんだろと困惑する。が、その話をされた日本人のほとんどはその彼を見て困惑するのである。そりゃそうだろ。

そして、「メタボ法」を紹介した後に、年に一度の会社でやる健康診断の前に、体重の増加を気にして食べ過ぎてたジャンクフードを断ち、電車や車でなくなるだけ歩くようにしているといった話を何人もの日本人から聞かされ、「アメリカやイギリスでこんなことしたら、人々は激怒してオフィスを焼き払うだろう」と著者は言うのだが、それを聞いた日本人はやはり困惑するばかり。

従業員の体重がどうだろうと、雇用主には関係のないことだし、そんなのとんでもないプライバシーの侵害じゃないかと私は言った。それを聞いたほとんどの日本人は丁寧にうなずき、何も言わず、それでいて、こいつ少しおかしいんじゃないかという目を私を見るのだった。

そりゃそうだ。ワタシ自身日本の基準(BMI が25以上)でいえば立派な肥満で、その定期健康診断を控えているので、この記事で書かれる日本の会社員のようなことをまさに思っているところだったりする。欧米企業では従業員の定期健康診断ってないの?

日本では肥満の基準は、上記の通り BMI が25以上では、WHO 的には BMI が30以上が肥満になる。アメリカの42%はそちらでの数字なんだろうが、さすがにデブのワタシですら、BMI 値30超えの経験はない。

その後も著者の日本人の(健康)寿命が長い理由を肥満率の低さに求める取材の話が続き、肥満の危機がいかに人為的なもの、我々の生き方が作り出したものかということを痛感し、我々と日本人の間に埋めようのない溝があるように思えた、と書く。

なんだかなー、というのが正直な記事の読後の感想である。彼の日本の取材旅行は、その新刊の内容にも反映されているのだろうか。

ネタ元は Boing Boing

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