アメリカでデジタルコンテンツに関する気になる判決が出た。
今回の判決では「ファーストセール・ドクトリン(first sale doctrine)」と呼ばれる法理が争点になっていた。これは、ある著作物の合法的所有者にはそれを転売する権利があるとするもの。この裁判を担当したリチャード・サリヴァン連邦地裁判事は、キャピトル・レコードの訴えに対し、「ファーストセール・ドクトリンはデジタルコンテンツにおいては適用されない」という判決を下した。
米法廷「デジタルコンテンツの転売は著作権侵害」|WIRED.jp
今回米連邦地裁で下された、合法的に購入したデジタル音楽ファイルをネットユーザーが転売できるようにしているウェブサイトについてこれを違法とする判断は、音楽だけでなく電子書籍にも大きな影響を及ぼす。
ヒュー・マクガイア、ブライアン・オレアリ編『マニフェスト 本の未来』においてワタシが訳した第16章「読者の権利章典」でカシア・クローザーは、権利消尽の原則、つまりファーストセール・ドクトリンについて以下のように書いている。
これまでは本を買う限り、それを何でも好きなようにする権利も一緒に購入してきた。それが家族や友だちとの本の共有を意味した人もいる。それがページに隠し穴を開け、そこに貴重品を隠すことを意味した人もいる。私たちは、お金のために本を売ったり、本を他の本に交換してきた。本を芸術作品に変えたりもした。読書家に聞いてみたら、小声でしか言えないようなことを本にやったことがあるのを教えてくれるだろう。
(中略)
その後、eBookではまったく新しいルールがやってきた。突然、私たちの本はDRMの支配を受けることとなった。DRM を好きな読者なんていないが、毎日DRMの神を賛美する大手eBookストアが世間にいることは私が保証する。DRMは、権利消尽の原則により読者がかつて有していた権利を制限するものだ。わかりやすく言い換えさせてもらえば、権利消尽の原則とは本節の最初の段落で言及した素晴らしい権利すべてを原則的に消費者に許可するものだ。
eBookにより、私たちが享受してきた権利――誰もeBookに隠し穴を開けようと思わないことは私も認めるが――は消え失せてしまった。私たちはeBookを転売できない。本を(簡単には)共有もできない。本を慈善団体に寄付もできない。実際、買い手が本を買えるようになった時代の始めから享受してきた、まさにその権利を行使しようとすると、著作権侵害の容疑につながりかねないのだ。
そうでなくても正直な市民を(ああ、これはタイプしたくないのだけど)海賊に分類しかねない。
そう、デジタルな世界では、紙の世界で享受しているのと同じ権利を行使しようとすれば犯罪者になってしまう。
長々と引用させてもらったが、権利消尽の原則と電子書籍の関係は理解いただけるだろう。別のところでこの著者が書くように、電子書籍で簡単にできるのは、実は捨てることだけなのだ。
ただまぁ、デジタルコンテンツがそのまま転売できていいかというと、それは権利者は許せんだろうなというのも確かである。ただ転売はともかく、もう少し友人などと簡単に「共有」できないものかと思ったりはするね。
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そうそう、『マニフェスト 本の未来』関係では、第14章を担当したロン・マーティネズさん(元 Yahoo! 知的財産発明担当 VP)が来日したそうで、そのときのインタビュー動画(日本語字幕付き)が公開されているのでどうぞ。