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ヒッチコック

先月、機内放送で観た。

『サイコ』(asin:B006QJT2UI)はヒッチコックの代表作とされ(最近もこの映画の前日譚がドラマ化されてるね)、ワタシもそう思う。しかし、これは彼の映画の中でも異質でショッキングな作品であり、そして21世紀を生きる我々は、もはやこの「名作」に監督が望むような新鮮さでショックを受けることはできないのではないか、と以前からずっと思っている。

これは『サイコ』に限った話ではないのかもしれない。しかし、この映画が最もこの構図が顕著で、ワタシは勝手にこれを「『サイコ』問題」と呼んでいる。

物心ついた頃から山奥に住んでた人間でもなければ、映画を観る前からジャネット・リーがどういう最期を遂げ、ノーマン・ベイツがどういう人物か、彼の秘密まで我々は予め知ってるんですな。

お金を持って逃げる女性主人公、果たして彼女は逃げおおせられるのか、彼女が泊まるモーテルの管理人はちょっと神経質で陰があるが好人物そうだ(アンソニー・パーキンスは当時そうしたイメージを体現していた)。果たして彼はどんな風に事件に絡むのか。む、彼女がシャワーを浴びる………ギャアアアアア!! とはならないはずなのだ。

さて、本作はその『サイコ』撮影時のヒッチコック夫妻をテーマにしている。

今ではこれも人口に膾炙しているといってよいだろうが、ヒッチコックの変態性、飲食への執着、天才の支配欲と孤独と横暴がマイルドにだが描かれていた。エド・ゲインが一種の狂言回しになる構成もらしかった。

巨匠を演じるアンソニー・ホプキンスは好きな俳優だし、よく演じているが、本作の彼はあまり好きではない。これは彼の演技に文句があるのではなく、ワタシ個人が最近多いこの手の「名優による歴史上の有名人のそっくりさんを目指した演技」にうんざりしているためである。

本作の魅力は、ヒッチコック夫人のアルマ・レヴィルを演じたヘレン・ミレンに尽きる。彼女のことは何度も称えているが、本作でも彼女は美しく芯の強さを持った女性を演じており、やはり称賛に値する。

撮影におけるクライマックスというとやはり例のシャワーシーンになるのだけど、あのシーンはソール・バスが演出したという説は当然ながらこの映画では採用しておらず、これはジャネット・リー自身の証言にも合致する。実際はこの映画のような劇的な感じではなかったのだろうが、まぁ、それは映画ということで。

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