M・ナイト・シャマランの前作『ノック 終末の訪問者』については、書くことが「正直特に何もない」と明言して一切感想を書かなかったほどの映画で、もう彼の作品を映画館に観に行くことはないかと思ったが、たまたま時間が空いたので新作を観に行った。
『ヴィジット』以降、ここ十年ばかりは低予算で映画を作り、しかし、その多くをヒットさせているシャマランだが、本作はその中ではもっとも予算がかかっており、それは多数のエキストラを必要とするライブ会場での撮影が必要な作品のためか。
本作については、FBI が人気歌手のライブを連続殺人犯を逮捕するために利用するという大筋だけ小耳に挟み、予告編も一切見ずに臨んだのだが、意外なほど直線的なストーリーになっており、いわゆるどんでん返しのためのどんでん返しみたいなものはない。
主演のジョシュ・ハートネットは、『オッペンハイマー』が久しぶりという感じだったが、あそこでのしっかりした演技が本作の年齢相応な父親役につながっている。
M・ナイト・シャマランという人は出たがりというか、放っておくとどんどん自分がやる役が重要になっていく印象があったが、なんと本作では実娘を劇中歌いっ放しな歌姫役に抜擢している。お前、そう来たか。これでステージで歌われる楽曲や彼女の歌がしょぼしょぼだったら目も当てられないのだけど、そのあたりはちゃんと聴くに堪えるものになっていた。そして、娘さん、ただ歌って踊るだけでなく、後半重要な役割を果たすんですね。
上記の通り、本作は余計なひねりのない作りで、主人公の正体も早々に分かるのだけど、腐ってもシャマランというべきサスペンスになっている。
ただツッコミどころは多くて、いくらなんでも警備が杜撰すぎるだろというポイントはいくつもあり、しまいにはシャマラン、なんでお前がそこにいるんだよ! となんか脱力しながら笑ってしまった。やっぱり、お前出てくるんだ。
特に最後あたり、主人公が超人的なのはともかく、FBI がものものしい割にとにかく杜撰なんだよね。なんであの状況でわざわざ家族を呼び寄せるのか、そして主人公が好きに動くのを許すんだ……と思ったら、案の定の展開で、やっぱり底抜けだけど、楽しんだんだからいいや!