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今更ながら追悼プリンス

自分にとって大きな存在だった人が死んだときには、ちゃんとその人について書いておこうとフィリップ・シーモア・ホフマンが死んだときに誓ったもので、プリンスもそうした人なのでこうやって書いているのだが、今年はデヴィッド・ボウイに続く、まったく予想もしなかった訃報だった。ボウイはそれなりの年齢だったが、プリンスはまだ57歳、今年もピアノ弾き語りツアーというチャレンジをしており、とてもじゃないがそんなこと予想すらしなかったわけで。2016年はワタシにとってだけでなく、多くの人にとって凶事が多い年だったと後で振り返って思う年になるのではないか。

いろんな人が追悼文を書いているが、若林恵氏のものが感覚的に近かった。

今回の訃報に際してボウイとプリンスについての逸話もいくつかツイッターに流れてきたが、この2人を並べたくなる気持ちは分かる。タイプはかなり異なるが、ボウイが華麗に変化し続けることで70年代にイノベータであり続けたように、プリンスも80年代のシーンの音楽的なイノベーションを引き受けてきたからだ。

「天才」という言葉は、音楽の分野で勢い濫用されがちだが、プリンスが本当にそれに値する極めて数少ない人の一人であることは間違いない。

ワタシが初めて買った彼のアルバムはご他聞にもれず『Purple Rain』だが、個人的には『Parade』を最初聴いたときの衝撃は忘れられない。A面の組曲のように畳み掛ける感じに、こんな異様な音がポップミュージックとして流通しているのか! と当時純朴な洋楽少年だったワタシは感動したもので、今でも一番好きなアルバムを挙げるなら『Parade』になるだろう。

彼の最高傑作は何かと問われたら、その次の『Sign o' the Times』になるだろうが、さらにその次の『Lovesexy』あたりまでが、イノベーターとしてのプリンスが面目躍如だった時代ということになる。

しかし、若林恵氏が書くように、その前に『Black Album』リリースを巡るごたごたがあった。ワタシは若林氏より少し年少であり、また田舎に住んでいたため、はなからリリース直前にお蔵入りになったアルバムを買い求めるつもりがなかったのが幸いしたと言える。

デヴィッド・ボウイの変化が一種の人体実験であり、またその背景に良い意味でのミーハー感覚があったのに対し、プリンスの折衷主義はもっと彼のアイデンティティーに深く根ざすものだったはずだ。『Lovesexy』と『Black Album』は、白/黒、愛/憎悪、善/悪といった要素が両極端に出てしまったアルバムだった。『Black Album』が当時リリースされていたら、間違いなくめっちゃ売れていたはずである。しかし、それは彼の首を絞めることになるのが分かっていたからこそ、リリース中止の決断をくだしたのだろう。

90年代に入っても多作ぶりは変わらなかったが、ワーナーとのごたごたがあり、改名騒動や顔に "Slave" と書き込むなど困惑する話ばかりで、何より作品的に『The Gold Experience』や『Emancipation』など好きなものもあるが、かつてのイノベーターとしての彼を期待するファンからすると明らかに物足りなかった。

ゼロ年代に入ってくると、ワタシも現役のロックリスナーではなくなり、過度の期待がなくなったことで、『Musicology』以降のアルバムを素直に楽しめるようになったが、リリース形態がよく分からない作品があったり、インターネットに対する姿勢も変遷があり、真意が掴みにくいもどかしさがあった。

そのあたり、彼のライブを一度でも見れていれば、印象は大分変わっただろうにと思う。2002年以降プリンスの来日公演が実現しなかった事情については宇野維正氏の追悼文でも触れられているが、結局彼のライブを一度も体験できなかったのは、ワタシにとって最大の痛恨事である。

思えば、昔だと「ライブ盤」というのが重要なアイテムで、海外の有名ミュージシャン/バンドであれば、一枚くらい決定版となるライブ盤があったものだが、プリンスの場合、意外なくらいライブ盤が少ない。ライブでは音楽的体力の不足が明らかになるためにライブ盤に積極的でない人もいるが、プリンスの場合まったくその対極にある人なのに、ずっと不思議だった。

その理由は、80年代には『Sign o' the Times』リリース時に同名のライブフィルムを作ったこともあっただろうし、ゼロ年代以降のライブに軸足を置いた戦略も影響したのかもしれない。

プリンスは多作で知られるが、実は未発表作は数限りなくあり、既にアルバム何十枚分の音源が完パケ状態で倉庫に眠っているといった都市伝説めいた話がある。今後そうした音源のリリースをもちろん期待するし、今回の訃報に際していろんなライブ音源を聴くことができて嬉しかったが、各時代ごとのライブアルバムとかしかるべき筋からリリースされることを願うばかりである。

恥ずかしながら今回の訃報を受けてはじめて彼の最新作『HITnRUN Phase Two』を聴いたが、リラックスした、かつてからすると考えられないくらい余裕のある作りになっていて、その次の展開を聞きたいと思わせるアルバムだった。「俺は死はこの世を去るって意味じゃないと思ってる。死はある時、俺がリアルタイムで話せなくなった時のことだと思う」と彼は語るが、リアルタイムで彼が新たに作る音を聞けなくなるということ、それこそが残された人間にとって何よりも悲しいことであるのもまた確かなことなのだ。

最後に特に好きなプリンスの曲を10曲ほど挙げておく。以下発表順に並べており、つまりは順不同で、普通のファンなら絶対選ばない曲が少し入っているのは、個人的な思い出による。

  • 1999
  • Purple Rain
  • Paisley Park
  • Pop Life
  • Venus de Milo
  • If I Was Your Girlfriend
  • The Cross
  • Letitgo
  • The Holy River
  • Chelsea Rodgers

Purple Rain (1984 Film)

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  • アーティスト:OST
  • 発売日: 2001/07/30
  • メディア: CD

SIGN 'O' THE TIMES

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  • アーティスト:PRINCE
  • 発売日: 2004/06/01
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Emancipation

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Musicology

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  • アーティスト:Prince
  • 発売日: 2004/04/20
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HITNRUN PHASE TWO

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