16年ぶりのニューアルバム『Songs Of A Lost World』が、32年ぶり(!)にアルバムチャートで全英1位を獲得した The Cure のロバート・スミスに New York Times が取材した記事で、もちろん新譜の話も多いのだが、ロバート・スミスが世界最大級のライブエンターテイメント企業であるライブ・ネーション(チケットマスター)と戦った話の分量も多く、記事タイトルもそれを指している。
近年、ダイナミック・プライシングによってライブのチケット価格が制御不能になっており、再結成オアシスのチケット価格暴騰が問題になったのも記憶に新しいが、ロバート・スミスがいちはやくライブ・ネーション(チケットマスター)に対して改革を粘り強く求めていたのは知らなかった。
「私は口紅を塗ってるし、65歳だ。世界の何が間違っているかを言うために立ち上がる種類の人間ではない」とロバスミは言うが、彼はチケットマスターに対して一歩も引かず戦った。
キュアーのライブのチケット価格は20ドルか25ドルで、トップ100アクトのチケットの平均価格が131ドルなのを考えると、これは破格の安さと言える。ロバスミは、これを若いファンを考えてのことと語る。
周りからはそれじゃ大損をするだけと説得されたそうだが、前作を出した後に音楽業界ビジネスについて研究する時間があったロバスミは、チケット価格をもっと安くできるはずとライブ・ネーションと戦った。
しかし、キュアーが例外的な存在であり、彼らに加勢するアーティストが他にいなかったのにロバスミは失望したという。「人々はライブ・ネーションとチケットマスターを怒らせるのを恐れている。アーティストの力こそ究極の力なのを考えれば、これは実に奇妙だ」とロバスミは苦々しく語る。
チケットマスターに反旗を翻したバンドは、当たり前だがキュアーが最初ではなく、90年代にはパール・ジャムが同じようにチケット価格の問題でチケットマスターと戦ったが、法廷闘争でひどく疲弊させられ、バンドが望むような結果にはならなかったはず。ライブ・ネーション(チケットマスター)を恐れて声をあげる人が皆無なのは故なきことではない。
さて、バトルを経たキュアーのツアーは、大損どころか3750万ドルものチケットを売り上げ、バンド史上最高の成功を収めた。しかも、バンドTシャツを(相場の半額である)25ドルで売り、2倍の売り上げとなったという。
ロバスミは、このインタビューでも後悔はしていないときっぱり語る。かっこいいじゃん。
さて、キュアーの新譜は大変評価が高く、ワタシが初めて聴いた彼らのアルバムにして、ワタシの人生航路にも影響を与えた『Disintegration』以来の最高傑作という声もあるが、不本意ながらギターが弱いという田中宗一郎の指摘に同意する。ポール・トンプソンの偉大さを今になって思う。
しかし、新譜発売にあわせて公開されたライブ配信は素晴らしいぞ。
てっきり新譜から何曲かのライブ演奏の配信かと思ったら、3時間の表示にマジ? と思ったらマジだった。
いきなり新譜を全曲演奏し、その後はワタシが大好きな『Disintegration』~『Wish』期の楽曲を中心にやって本編終了。その後2回のアンコールだが、これだけ歴史があり、しかもずっと質が高い作品を作ってきたバンドは、いくらでもやる曲がある強みがある。
彼らをずっと愛してきて本当によかった。