ここでも何度も紹介している(その1、その2)Netflix ドキュメンタリー『監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』だが、電子フロンティア財団などデジタルフリーダム関係の仕事でも知られるSF作家のコリイ・ドクトロウが、インタビューで問題点を指摘しているので紹介しておきたい(そういえば、Wired でも批判的なレヴューが出てましたな)。
このインタビューの最初にテック企業の従業員の多くも自分たちの仕事に疑問を持ち始めているという話をドクトロウはしているのだが、そこで『監視資本主義』に登場するテック大企業の元従業員を引き合いに出されたところ、放蕩息子のたとえ話を引き合いにしながら皮肉っぽく答えている。
優れた批評家の Maria Farrell が「テック界の放蕩息子」って呼んでるやつですね。放蕩息子の話で重要なのは、放蕩息子自身が苦しんだから彼は救済されるという点だと彼女は言ってます。しかし、この種のテック界の放蕩息子たちが経験したのは、悲しいと思っただけでしょう。
テック界の人たちはそれ以外の人たちの声に耳を傾けていなかった、ダナ・ボイドのような人類学者は警告していたのに連中はそれを無視してきたという話をドクトロウは続けるのだが、『監視資本主義』については以下のように手厳しい。
『監視資本主義』の問題の一つに、信じられないくらい天才のテック企業の連中が機械学習を使って心をコントロールする方法を考え出したと主張してることがあります。それが問題で、ハンドスピナーを売りつけるマインドコントロール術がおじさんをレイシストにすべく乗っ取られたというわけですが、もう一つ可能性があります。それは連中の主張がゴミだということです。連中は販売資料で誇大宣伝してるだけで、実際に人々をシニカルに、怒りっぽく、辛辣で、暴力的にしたのは公共圏における独占と腐敗の広がりが原因なんです。つまりここで問題なのは、テック企業のツールが悪用されたことではなく、それらのツールが開発された構造が本質的に腐ったもので、今も腐りつつあることなんです。
つまり、ドクトロウはソーシャルメディアが人々の心を支配し操っているというマインドコントロール的ストーリーに懐疑的で、問題はテック大企業の独占と腐敗にあると考えている。
これは Netflix ドキュメンタリー『監視資本主義』に対する批判だが、(このドキュメンタリーにも出演している)ショシャナ・ズボフ『監視資本主義の時代』に対しても同様の批判をしていて、それをズバリ「監視資本主義を破壊する方法」というタイトルの大長文を発表している。
いつまで経ってもショシャナ・ズボフ『監視資本主義の時代』邦訳が出ないものだから、ドクトロウのこの文章を勝手翻訳して公開してやろかとか思ったりしたのだが、これがまたすごく長いんでねぇ。
ドクトロウのこの Guardian のインタビューは、彼の新作 Attack Surface の宣伝が目的だが、この本は邦訳も出た『リトル・ブラザー』(asin:4152091991)シリーズの最新作である。これのオーディオ版をめぐって Amazon の市場支配に反旗を翻したり、有名ブログ Boing Boing から離脱したり、相変わらず忙しい人で、そういう話についても取り上げようと思いながらできずにいたので今回は取り上げさせてもらった。
というか、ショシャナ・ズボフ『監視資本主義の時代』いつになったら出るんだよ!
ネタ元は Slashdot。
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