昨年6月に公開した文章だが、先日「パブリッシングの主軸をはてなからnoteに移した/移しつつある人たちをまとめてみた」で紹介したところ、初めて読んだ人が多かったようで、はてなブックマークが増えていた。
この「暗い森」になりつつあるインターネットというトレンドは、これを書いたおよそ一年半前より(Twitter の荒れ度合い、可燃性の高まりと呼応して)はっきりしてきたように思う。
ここで「暗い森」の代表として挙げられていたのはニュースレターやポッドキャストである。
アメリカにおけるニュースレターの盛り上がりについては、以下の市川裕康さんの文章が参考になるだろう。
- ニュースレター配信サービス「サブスタック」と静かに広がるパッション・エコノミー|市川裕康 (メディアコンサルタント)
- 情報収集手段として注目のニュースレターと管理アプリ『Stoop(ストゥープ)』|市川裕康 (メディアコンサルタント)
- 情報過多の時代に注目が集まるメールニュースレター〜設立4年で売上5,800万ドルを見込むAXIOS(アクシオス)|市川裕康 (メディアコンサルタント)
しかし、ワタシはどうもニュースレターに乗り切れないところがある。そのあたり少しモヤモヤしていたところ、ポッドキャスト Rebuild でそのあたりを突く発言があったので少し文字起こししてみる。
だいたい1時間47分あたりから。「ロストテクノロジーとしての RSS」の話からの流れである。
miyagawa:最近、でもないですけど、ここ2、3年、ニュースレターがめちゃくちゃ流行ってるんですよね。アメリカでは特にそうなんですけど。日本でいうと、メルマガって言われているのかな。
higepon:ああ、個人がやるやつですか?
miyagawa:そうです、そうです。アメリカは特にそうなんですけど、ここ2、3年……もっとかな、なんかみんなウェブサイトでブログやるのを止めて、ニュースレターになってるんですよ、情報発信が。で、有料のものとかもあって、Substack ていうサイトとかすごい盛り上がってて、要は簡単に有料のニュースレターを始められるサービスみたいな
higepon:うん
miyagawa:いいんですけど、僕としては、ニュースレターじゃなくて RSS にしてくれとか思ってしまうので。なんていうかね、ロストテクノロジーの中でも、Eメールはちょっと復興の兆しがある中、RSS はなんかもうみんな使わないというのがありますね。やっぱ、ニュースレターはEメールアドレスが集められて、みんなEメールはなんだかんだ見るから。そこの一等地に情報を届けたいっていう要望があるっぽくて。例えば、The Verge のチーフだったエディターの人も Verge 辞めて、自分でニュースレター立ち上げて、とかやってますからね。なんか最近すごい盛り上がりを感じますね
higepon:確かに僕もニュースレターは、サブスクライブしているのがあって、例えば、知り合いのデザイナーの人がバイウィークリーで出してるやつとか、あとは Weekly Kaggle News っていう、最近 Kaggle でホットなトピックを流してくれるのを見てるとかありますけど、やっぱりちょっと気になるのが、マインドセットの違いですかね。メールを開いてるときにニュースデータを見たい気持ちかというとそういうわけでもなくて
miyagawa:そうなんですよ
higepon:ニュースレターとか見たいときは、クリエイティブになりたいときとか、あとちょっとまとまった時間があるときにそういうものを見たいんだけど、それが例えば、「楽天市場セール中」に混ざってると、なんか、ん? これはマインドセットが違うぞ、と思っちゃうとかありますね
miyagawa:そうなんですよ。Inbox にそれを残しておきたくないんですよね。かといって消すと、読まないんで絶対に。で、一応ね、解決策があってですね、kill-the-newsletter.com というサイトがあるんですよ。ちょっと名前が物騒なんですけど。要はEメールアドレスを勝手に生成して、そのアドレスでニュースレターにサブスクライブすると RSS フィードを吐いてくれるっていう、まさに僕が求めていたような(笑)サービスで、無料なんですけど、これがなかなかよくできてますね。それを使っています
まさにこれである。ニュースレターを見たいときと、メール処理をやるときのマインドセットが合わないんですな。
[2020年12月17日追記]:Substack がニュースレターの購読をまとめるべく RSS リーダーを立ち上げるという報道があった。RSS はロストテクノロジーではなかった!(笑)
さて、次はポッドキャストだが、こちらの分野は Spotify がビデオポッドキャストを含め主導権を握るべく攻勢をかけており、「ポッドキャストのYouTube」を目指しているのは間違いなさそう。
そんな Spotify のポッドキャスト関連の話題はイケイケな話ばかりという印象があったのだが、ワタシもたまに聞いている日本オリジナルの人気番組でも打ち切りの心配をしなければならないのかと意外に思ったりした。
これはポッドキャストに限らないが、平和博さんが「編集長たちは次々と去り、残ったメディアは合併する」で書いている「コンテンツバブル」の崩壊やメディア合併の話も関係するのだろうなと思ったりする。
とはいえ、大枠で見れば音声コンテンツには新規参入が続いており、活気があるのは確か。
最近ではオーディオムービーとか題した本格的な音声コンテンツも出ており、ワタシもニッポン放送の「ビジネスウォーズ/BUSINESS WARS ニンテンドー対ソニー」や TBS ラジオの「つけびの村」とか聞いていて、前者は特に面白かったですね。
この手の番組で聞いて面白かったもの、お勧めのポッドキャストなどありましたら教えてください!
今から6年以上前にワタシは個人ブログ回帰について書いたが、当時も正直これはキビシイんじゃないかと思っていた。実際、宮川達彦さんも話されているように「みんなウェブサイトでブログやるのを止めて」る流れがあるわけだ。
情報の受信手段としてはともかく、情報の発信者としては、ワタシはニュースレターにもポッドキャストにも乗り切れない人間である。
それは単にワタシは頭の回転が鈍くて口下手なのでポッドキャストへの参入を難しいと思うのもあるし、(メルマガ、サロンを含む)有料ニュースレターをやると考えただけで心理的負担で胸が苦しくなるくらい。
上で面白いポッドキャストを教えてくれと書いたが、2020年末の今、面白いブログって何があるだろう? 特に個人がやっているもので。もはや個人ブログは「固定電話化」しているのかもしれないが。
このエントリで紹介した Robert Rhinehart の Mostly Harmless など、ワタシが最近知った実例だが、テック系に限らず誰か知ってる面白い個人ブログを教えてくれないだろうか?
東浩紀さんのゲンロンや「シラス」の試みも、「暗い森」になりつつあるインターネットに対応するものだと思うし、コンテンツが無料でもビジネスになるのは一種の「逆説」であって、正義視するのはおかしいというのはその通りなのだろう。
「すべてを共有するのでもない、すべてを一元管理するのでもない、かといってすべてを市場に任せるのでもない、第4の交換」を模索し、動画配信プラットフォームを自ら立ち上げてリスクを負う東浩紀さんには敬意を払っている。
しかし、ワタシは上に書いたように、有料コンテンツを一切やらないというわけではないが、今でも公開の場で無料で読めるブログにこだわりたいという気持ちがあるのだ。それが完全に時代遅れであることは分かっているけれども。