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追悼チャーリー・ワッツ ~ かつてワッツ夫人が語った「ローリング・ストーンズ」に対する深い怒り

rollingstonejapan.com

もはや説明の必要はないが、チャーリー・ワッツが亡くなった。ワタシが節約打法と呼ぶ、ハイハット抜きに特徴のある彼のドラミングを愛する者としてとても悲しい。ピーター・バラカン「チャーリーがいなければ、ストーンズはもう終わりでしょう。それとともに、あのロックの時代、僕らの時代の終わりを感じる」と言うのはよく分かる。

折角なので少し毛色の変わった記事を紹介しようと考え、rockin' on 1990年1月号(表紙はストーン・ローゼズ)に掲載された、「メンバー全員の妻たちが語るローリング・ストーンズ」という非常に珍しい企画を思い出した。というわけで、久方ぶりに、かつて読者だった雑誌ロッキング・オンのバックナンバーを引用する企画「ロック問はず語り」である。

時期的にはアルバム『Steel Wheels』をリリースし、久方ぶりの全米ツアーに出る前に取材されたもので、元々は Vanity Fair に掲載された記事の翻訳で……と調べてみたら、ちゃんと元記事が全文ウェブに公開されていた!

archive.vanityfair.com

以下の引用は飽くまで rockin' on 1990年1月号から。何しろ30年以上前の記事なので、現在一般的なジェンダー観からすれば問題になりそうな記述があることは予めお断りしておく。

Vanity Fair の記事の写真は、ロンドンのスタジオで撮影されたジェリー・ホール(当時のミック・ジャガーの内縁の妻)、パティ・ハンセン(キース・リチャーズ夫人)、ジョー・ウッド(当時のロン・ウッド夫人)、そしてシャーリー・ワッツ(チャーリー・ワッツ夫人)である。

記事の最初で、撮影スタジオに現れたジェリー・ホールが、ネックレス類を何本かわしづかみにして言う言葉が奮っている。

「でも、撮影は、ほら、あの人達から始めたらどうかしら。マリアンヌ・フェイスフルとか、アニタ・パレンバーグ、それとアストリッド・ワイマンとかね。で、タイトルは、そう、『ストーンズが捨てた女たち』でキマリ」

最終的にミック・ジャガーと4人もの子供をもうけることになるジェリー・ホールは自信満々の様子で、この翌年の1990年には電撃的に結婚式を行う。が、後に破局し、彼女も『ストーンズが捨てた女たち』に名前を加えたのはいささか皮肉である。

そういえばこのインタビューで、ジェリー・ホールはミックのことを「彼ほど読書量の多い人は見たことない」と称えているが、後にミックのソロ作発表を受けたインタビュー時、児島由紀子が「ジェリー・ホールさんが、あなたほど読書量の多い人を見たことがないと言ってましたよ」とヨイショしたところ、ミックの答えは「へぇ、ブライアン・フェリーってそんなに本を読まない男だったのかね」で、当時既に囁かれていたこの夫妻の不仲を裏付けた形となった。

この記事でも、アンディ・ウォーホルの日記(asin:4167309726asin:4167309734)に出てくるジェリー・ホールのゴシップ話などなかなかすごい内容もあるのだが、そのあたりは割愛する。

面白いのは、この記事におけるメンバーの妻たちとストーンズという集団の関係性についての分析である。

 ただ、いくら妻たちが夫たちを支えたところで、ロックンロール女房の生活というものが夫達の職業的な性格からして非常に孤独なものであることに変わりはない。そして、それに輪をかけるように、ストーンズという集団自体、元ジャガー夫人のビアンカジャガーがインタビューでかつて強く語ったように、全くの「男性秘密結社」なのだ。いつでも、ストーンズでは「バンド」が全てを優先してきたわけで、そうした時、妻たちとしては孤独を紛らわしてくれるのは自分達の家族以外誰もいないのだ。

「ロックンロール女房」って……。

 そして、こういう対応の仕方こそ、「ストーンズの女たち第一世代」――つまり、キースそして、ブライアン・ジョーンズの愛人だったアニタ・パレンバーグやミックの初代愛人マリアンヌ・フェイスフルやビアンカには全く欠けたものだった。あれほどこの世の春を謳歌したアニタ、マリアンヌ、そしてビアンカが犯した決定的な間違いは、自分達こそもストーンズの一員だと錯覚してしまったことなのだ。今日のストーンズの女たちと違って、アニタもマリアもビアンカも自分達の家族との繋りを持たない孤独な存在だったわけで、そうした自分達の孤独をストーンズで埋め合わせようとしたところに彼女達の悲しい結末が待っていたのだ。

なかなかキツいですな。この記事では、ここで名前が挙がっているアニタ・パレンバーグにも取材していて、彼女の証言もこの分析を裏付けている。

ロックンローラーと暮らすなんて、こんな孤独なことはないんだから。彼がどれほど自分のことを愛してくれようと、音楽に対する愛が絶対にそれに勝っているものなのよ。そして、キースが音楽に取り組み始めるとそれ以外のことはもう何も関係がなくなってしまう。(中略)女がもし、ロック・スターなんかと暮らすんだったら、彼とは全く関係のない自分の生活というものを持ってなきゃ絶対にやっていけないものなのよね

この記事において、そうしたロックスターである夫とは「全く関係のない自分の生活」をもっとも確かに持った人は、ジェリー・ホールやパティ・ハンセンではなく、ツアーへの帯同を宣言するジョー・ウッドでもなく、ましてや当時ビル・ワイマンと結婚したばかりだった当時まだ十代のマンディ・スミス(ビルより34歳年下でスキャンダルとなった)でもなく、チャーリー・ワッツ夫人のシャーリーだったと今になって分かる。そして重要なのは、その佇まいがチャーリー自身にも重なることだ。

キースをはじめとしてストーンズの面々が麻薬中毒から脱しクリーンになった後、1980年代にチャーリーがひっそりヘロイン中毒に陥っていたことは知られるが、この頃には夫妻の確固たる生活を取り戻しているのが記事を読むと分かる。

 別々で眺めているとチャーリーとシャーリーは非常にキリッとした感じのカップルなのだが、二人一緒に並ぶとおそろしくセクシーな雰囲気だ。まるで、50代を迎えるのが待ち遠しかったかのようだ。

そしてシャーリーは、チャーリーについて「でも、考えてみるとチャーリーはいつだって50男だったというような気がするのよね」と語っている。当時の彼は48歳。思えば、もう少ししたらワタシその48歳になり、当時の彼に追いつく。この記事を読んでいた、当時高校生だったワタシは、自分がそんな年齢になるなんて想像もできなかった。で、その歳になってみたら、当時のチャーリーが持っていた気品、落ち着き、セクシーさを自分はまったく持ち合わせていないことに情けなくなる。

さて、ワタシの泣き言はどうでもいいとして、ロックンロールライフから完全に離れた生活を貫いたシャーリーの発言は、今読んでもとても重いものがある。

「だからそんな感じでチャーリーの趣味はいつも他の誰とも違っていたわ。それに、正直言って、いつだってチャーリーがあのバンドの一員だなんてとても信じられなかった。大体、突然ローリング・ストーンズの生活の中に放り込まれた日には私、もう愕然としてしまったわ。もう、何が何だか全くわからなくなってしまった。それも25年ズーッとよ。で、未だに、あの生活をどう考えていいのかわからないもの。当然、私としては怒りを感じたことが度々あったわ。それもすごく深いところでね。バンドの人達に関して言えば、皆好い人だとは思うの。ある限界を越えなければの話だけど。でも、私なんかはロックと音楽業界そのもの、その中でも特にストーンズの女性に対する扱いというものが許せないと思ってきたのよ。侮辱してるとしか思えないのよね」

1964年に結婚した二人は、このとき結婚生活25年、日本風(?)に言えば銀婚式ですか。そして、この夫妻はその後チャーリーの死が二人を分かつまでまで夫婦であり続けた。

この記事は、他の妻たちの証言にしろ、ビル・ワイマンの性豪伝説にしろ面白い話が他にもあるのだが、それはまた後の機会に紹介したい。

rollingstonejapan.com

『Tatoo You(刺青の男)』から40年になるんだな(来月には40周年記念エディションが発売される)。"Start Me Up" は、ワタシが初めて聴いたストーンズの曲であり、今なお彼らの曲で一番好きなのだけど、あのキースのギターリフこそがあの曲の最大の美点と思ってきたのだけど、チャーリーのビートもそれと同じくらいの美点なのだなぁ。

「プロモーションビデオの中でドラムを叩くチャーリーは、目の前のロックスターたちがどんなに激しくポーズを取ろうが、無表情を貫いた。むしろ、ミックのダンスに困惑の表情すら浮かべている」ってホントそうだよね。

そういえばこのアルバムのラストは "Waiting On A Friend" で、この曲はソニー・ロリンズのサックスソロが印象的だけど、彼を推薦したのも確かチャーリーだったはず。

これは個人的な思い出話になるが、ワタシがストーンズのライブを見たのは、1995年3月の福岡ドーム公演一度きりである。ライブ中のメンバー紹介で、チャーリーに対する声援がずっと止まず、そのときにもチャーリーは控えめに困惑の表情を浮かべていたっけ。

本当にストーンズのドラムがチャーリー・ワッツでよかった。彼に改めて感謝したい。

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