New York Times のミシェル・ゴールドバーグが、先月出た話題の新刊 Character Limit を引き合いに出して、「ドナルド・トランプが共和党にしたことは、イーロン・マスクが Twitter にしたことと同じ」と寄稿している。
彼女がまず取り上げるのは、昨年2月に世界でもっとも金持ちなはずの男が見せた驚くべき小心さの話である。
ルパート・マードックのゲストとしてスーパーボウルに招かれたマスクは、もっとも豪華な席に座っていたが、試合を観戦するのでなく、落胆して携帯電話に釘付けになっていた。彼もバイデン大統領もフィラデルフィア・イーグルスを応援するツイートを投稿していたが、バイデンの Twitter のフォロワーはマスクよりもずっと少ないにもかかわらず、マスクのツイートは840万ビューなのに対して、バイデンのツイートは2900万ビューを獲得していた。激怒したマスクは、エンジニアに彼のツイートがバイデンのに及ばない理由を明らかにするよう求めた。彼は試合を早々に切り上げて、飛行機でサンフランシスコのオフィスに戻り、日曜の夜に何十人もの従業員が彼に会うために呼び出されることとなった。
最終的には、ボスの怒りを鎮めるため、エンジニアは Twitter のアルゴリズムをいじり、マスクの投稿を増加させ、マスクをフォローしていようがそうでなかろうが、ユーザのフィードにマスクのツイートを押し込んだ。「事実上、マスクのツイートが他のどの投稿よりも優先されることになった」と New York Times のテクノロジー記者であるコンガーとマックは書いている。本の終わりごろに彼らは以下のように書いている。「批判にアレルギーのある人間が、世界最大のオーディエンスを買収し、自分を賞賛するよう求めたのだ」マスクとトランプが仲がいいのは不思議ではない。
今では広く知られることとなった、イーロン・マスクの投稿に異次元のブーストがかかる契機の話だが、ミシェル・ゴールドバーグは、この後に「ドナルド・トランプが共和党にしたことは、イーロン・マスクが Twitter にしたことと同じ」という話を展開するのだが、まぁ、そういうアナロジーを言いたくなるのは分かる。
『Character Limit』の著者二人はいずれも New York Times の記者なので、NYT にこの本からの Twitter Blue の改変を巡る騒動の箇所の抜粋が、「かくしてイーロン・マスクはブルーにこんがらがって」というタイトルで公開されている。この本の書名は、Twitter の140文字という当初の文字数制限から来てるようだ。
この抜粋からちょっと訳してみましょうか。
マスク氏が沈もうとする船と見た会社を救おうとしたのは、自分なら何百万もの人たちを説得して、Twitter Blue にお金を払ってもらえるという考えが前提にあったからだ。しかし、Twitter のオーナーの行き当たりばったりなプランと気まぐれさによって、その計画ははじめから成功の見込みがなかった。結果、ほぼ二年にわたる会社のかじ取りは、その財務を悪化させ、世代を代表する起業家という彼の評判に泥を塗った。
彼が指揮をとっている間、マスク氏は絶大な自信と自信喪失の時期を繰り返し、突然決断をくだしては翻意してきた。買収時の騒動は、発表後ごうごうたる批判を受けて翌日には停止したものの、一月後には再び利用可能となった Twitter Blue の取り扱いが良い例である。それ以来、Twitter 上のチェックマークは、有料、無料、そして偽物のごった煮となっており、混乱以外のなにものでもない。
これを読めばどういう本かお分かりいただけるのではないか。そりゃヤツの買収後、気がつけば X の価値は買収額の4分の1以下になっているわけだよな。
イーロン・マスクによる Twitter 買収を巡る騒動について既に何冊も書かれており(その1、その2)、日本でもそうだが(その1、その2)、これはその決定版となるのではないか。
エミコヤマさんの読書記録も参考まで。