旧聞に属するが、ROCK IN JAPAN 2024 in HITACHINAKA の大トリで登場したサザンオールスターズについての記事だが、桑田佳祐が歌の中で渋谷陽一に言及したと聞いて、ああ、そうだった、このブログでたまに渋谷陽一の著書からの引用を紹介すると言っておきながら8月も9月もやってなかった、といまさら思い当たった。
今回は、松村雄策+渋谷陽一『40過ぎてからのロック』収録の「40を迎えた日」から引用する。
松村 お前もいよいよ四十だな。
渋谷 他人事みたいに言うな。お前なんか、俺より二か月も早く四十じゃねえかよ。
松村 六月九日は社員に祝ってもらったか、愛される社長として。
渋谷 うちの社員が俺の誕生日を祝うわけないだろう。だいたい六月八日から九日にかけては十六時間の生放送をやってたから誕生日も何もなかったんだよ。
松村 お前も好きだな。なんかいつもその十時間だか、二十時間だか、意味もなく長時間の生放送やってないか。FM界の欽ちゃんみたいな奴だな。
渋谷 いつもやってねえよ、今度で二回目なの。
松村 二回やってりゃ充分だよ。
渋谷 だけど、さすがに生放送の最中に四十になったりすると、いつまでこんなことやってんだろうな、とか思うよ。
松村 そうだな、若いDJが生放送の最中に二十歳になったり、まあ三十歳になったりするのはシャレになるけど、四十じゃウラ寂しいだけだよな。こんな日にまで働かなくちゃならないんだな、このオヤジは、とか思われるぜ。
渋谷 たしかに。だけど、俺の場合DJっていうのは一種の楽しみだから、別に生活に追われているわけじゃないぜ。
松村 だったら生放送中に四十になるような仕事を入れるなよ。
渋谷 まあな。
渋谷陽一は1991年6月9日に40歳の誕生日を迎えているが、なんと16時間ものラジオ特番の生放送中だったという。
33年前の話だが、これは NHK-FM の特番で、記憶の捏造でなければワタシも聴いていた覚えがある。
『40過ぎてからのロック』は1995年の刊行だが、rockin'on の1985年12月号から1995年11月号までの「渋松対談」を収録したものである。書名には「40過ぎてから」とあるが、著者二人が30代半ばから40代半ばにいたる約10年の記録といえる。
失礼ながら、もう二人ともオヤジだなと思いながら当時読んでいたが、今読み直すと、当然ながら二人とも全然若くて元気なのである。なにせ16時間の生放送ラジオ特番なんてやってるわけで(その少し後にも、同様の長時間のラジオ生放送特番をやっている)。
この本に収録の別の回で、渋谷陽一はロックミュージシャンも45歳くらいが定年で、50代になったらロックミュージシャンが入れる老人ホームを作れば、なんて与太話をしているが、まさかメンバーが80代を迎えたローリング・ストーンズが今もツアーやってるなんて、当時は誰も予想できなかったんだよな。
あと時期的に「バブルがはじけて」な話題も何度もあるのだけど、これも今読み直すと当時の洋楽産業の勢いが今とかなり違っていて隔世の感がある。
例えば、対談の注釈に「ロッキング・オンの社員公募は求人一名に対し、応募千五百というとんでもない倍率がこの十年続いている」といったびっくりする話がさらっと書かれていて、今読んでのけぞったりする。その状況、いつまで続いたんでしょうな。
そして、渋松対談に添えられた4コマ漫画を描いているのが、相原コージ、ほりのぶゆき、いがらしみきお、西原理恵子と恐ろしく豪華だったりする。本の表紙イラストも手掛けているのもいがらしみきおですね。

