- 作者: David Kusek,Gerd Leonhard,yomoyomo,津田大介
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2005/12/06
- メディア: 単行本
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今週末は旅行していたので本家の更新はなし。
そのかわりといってはナンだが、先週気になるニュースがいくつかあったので、それにかこつけて『デジタル音楽の行方』の内容を紹介しようという魂胆である。まぁ、以前にも「『考えるヒント』で読み解く!」という文章を書いているがその要領で。
ハワード・スターンについては町山智浩さんの日記が詳しいが、彼も移籍する衛星ラジオについては『デジタル音楽の行方』でも「DJの帰還」として、
衛星ラジオ放送局は、DJのパーソナリティとヴィジョンがリスニング体験の重要な部分だった、従来の音楽ラジオの全盛期と似だしている。これらのデジタルDJは、従来のラジオのもっとも優れたところにデジタルな発見と双方向性を融合できる放送形式に期待が高まっている。(95ページ)
と評価されている。国土の狭い日本では衛星ラジオのありがたみが伝わりにくいので、渡辺千賀さんの文章は具体的で分かりやすいサンプルだと思う。
一方で従来のラジオがヒット曲偏重などの理由で多様性、そして影響力が失われていることが『デジタル音楽の行方』で繰り返し説かれているわけだが、渡辺さんも書くようにラジオという媒体そのものの力が日本のラジオとは桁違いなのである。
ハワード・スターンの問題などで保守性が批判される(例:ポール・クルーグマン「影響力の伝達経路」)クリア・チャンネルだが、
クリア・チャンネルは最近、ライブショーの録音に関する非常に重要な特許を取得しており、今ではライブショーの終了後すぐにライブ録音を販売することに関する独占的特許を保有していると主張している。クリア・チャンネルはまた、アーティストのマネージメント、出版、ツアー、その他の活動に関し、広い視野を持って新人アーティストにシードキャピタルを提供する事業も始めている。明らかに、クリア・チャンネルは注目すべき企業の一つである。(90ページ)
というのを認めざるをえないのだ。上に挙げられている活動を一つでもやっているラジオ局は日本にある?
「音楽の類似性」というのはレコメンデーションを行うのに重要な技術である。『デジタル音楽の行方』でも、
音楽のレコメンデーション、プレイリストの共有、協調フィルタリング、そしてエージェントスキームの重要性はどれほど強調してもしすぎることはない。レコード評からMTVにいたるまで、数千人もの音楽マーケティングの専門家が、オフラインの世界でこのクルミ割りに挑戦してきたが、いよいよデジタル技術がこの聖杯に手を伸ばすわけだ。(231-232ページ)
という前置きをして音楽の類似性検索技術について書いているが、そこで紹介される MusicGenome の話あたりを訳しているとき、その技術を利用したサービスである Pandora がニュースになっているのを見かけて、その偶然に驚いたのを覚えている(参照:音楽の遺伝子を分析したストリーミングサービス「Pandora」)。
類似性検索技術が今後発展したとしても、レコメンデーションに関しては人間の役割は非常に大きい。『デジタル音楽の行方』でもそうした「目利き」として "tastemaker" という言葉が何度も使われている。
先日、このあたりについてオライリー・ジャパンの編集者の方とメールのやりとりがあったのだが、『デジタル音楽の行方』では「レコード会社ではなくアーティストこそがブランド」という記述があるが、それを出版にあてはめた場合、オライリーはそれ自体がブランド価値を持っている稀有な出版社と言える。
Web2.0 がその代表だが、ここ数年のティム・オライリーを中心としたオライリーの「仕掛け」には批判もあるが、単なる出版社にとどまらない「目利き」への志向であるのは間違いない。そしてその原動力は危機感だろう。オライリーですらそうなのだから、音楽業界はそのあたりぬるいと思うね。