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ロバート・フリップに抱かれたい

今回の「ロック問はず語り」は、先日 YouTube で適当に検索していて見つけたロバート・フリップ先生の動画と、ロッキング・オン1992年1月号に掲載された、四枚組ボックスセット『紅伝説(Frame By Frame)』発売後の、クリムゾン再々結成を前にして行われたフリップ先生のクリムゾンの歴史を総括するインタビューをあわせてお伝えする。

この時代の映像で、フリップ先生が喋る動画は初めて見た。1979年だからソロ作『Exposure』を発表した頃か。

エクスポージャー(完全版)(紙ジャケット仕様)

エクスポージャー(完全版)(紙ジャケット仕様)

今の目で見ると機材が何とも古めかしいが、このフリッパートロニクスサウンドスケープに進化し、Windows Vista の起動音の仕事につながるのだから継続は力なりというか(今月に入り、フリップのマイクロソフトでのレコーディングの模様の動画が Channel9 で新たに公開されている)。

キング・クリムゾンが80年代に入って復活したときは、旧来からの、特に日本のファンの評判は悪かった。ロッキング・オンのインタビューでも、市川哲史がそうした旧来からのクリムゾン信者の声を代弁している。

●ところでエイドリアン・ブリューがヴォーカルというだけで、私は『ディシプリン』三部作の悪夢を蘇らせてしまうのですが……。

「何故、悪夢なんだい?」

●日本では、『ディシプリン』三部作のクリムゾンに対して、「これはクリムゾンじゃない」といった否定的な声が圧倒的に多かったんです。

「どうしてあれが『クリムゾンじゃない』んだ? わからないな、では彼らにとってのクリムゾンとはどういうものなんだい?」

●七五年以前のクリムゾンへの思い入れが未だに非常に強いからだと思いますよ。

市川哲史がこんな失礼な質問を繰り出すものだから、ロキノンはフリップ先生に「恥知らず雑誌」と呼ばれることになるのだが、80年代クリムゾンに対する低評価はやはり厳し過ぎたように思う。

というかこの映像を最初観てたら、ワタシも過去のクリムゾン云々とは関係なしに一発で好きになってただろうな。おおっ、フリップ先生が笑っている! しかもカメラ目線まで!

トニー・レヴィンのスティックベース、ビル・ブラフォード(今更ブルッフォードなんて書くか)のシモンズのシンセドラム、エイドリアン・ブリューの七色ギターによる異様に技巧的だけど、(旧来からのクリムゾン信者からそっぽを向かれる原因と思われる)同時にどこかヘンテコでユーモアを感じさせる音がニューウェーブの時代を感じさせる。

この動画は映像の質は良くないが、特にフリップ先生のパートの音をちゃんと拾っていて素晴らしい。この曲に関してはブリューの象の泣き声擬音がクローズアップされがちだが、フリップ先生(英国紳士然としたスーツ姿がステキ)のギターもすごいことが分かる。

余談だが、この動画を取り上げているダイアリーつながりで、「眩暈」と呼ばれる処エイドリアン・ブリューが「ギターで動物の鳴き声を奏でる男」、「ギター一本でオーケストラの音を作る男」として日本の CM に出た映像を久方ぶりに見て懐かしい気持ちになったり、「石版!」トニー・レヴィンの超絶テクを堪能させてもらった。

80年代クリムゾンの代表作というとやはり『Discipline』になるのだけど、90年代になってリリースされたライブ盤『Absent Lovers』のほうがワタシ的にはお勧めである。これは80年代クリムゾン最後のライブで、フリップ先生も件のインタビューでこう語っている。

ただ一つ言っておかなければならないのは、僕という非常に厳しいクリムゾン批評家の耳をしても、八四年のライブは今聴いても素晴らしいということだよ。ボックス・セットの編集の為に当時のライブ・テープを全部聴いたが、凄かった。これだけバンドにケチをつけてる僕ではあるが、おそらく八四年の僕らは八一年の僕らよりも演奏能力は優れていたと認める。ただ、八一年には実に無垢な魔力が働いていたが、八四年の段階ではただの世界五指に入る優れたバンドに過ぎなくなっていたんだ。それでも、我々がとてつもないライブ・バンドだった事には変わりはない。

「ただの世界五指に入る優れたバンドに過ぎなくなっていた」なんてワタシも言ってみたいものだ。キング・クリムゾンは1969年と1981年の二度、世界最高のロックバンドだった、(この時点での)クリムゾンのベスト作は『クリムゾン・キングの宮殿』『レッド』、そして『ディシプリン』というのがフリップ先生の見解である。

Discipline: 30th Anniversary Edition

Discipline: 30th Anniversary Edition

アブセント・ラヴァーズ(紙ジャケット仕様)

アブセント・ラヴァーズ(紙ジャケット仕様)

90年代における再始動後は、現在までメタル的な方向に舵を取りながらクリムゾンは活動を続けているのだが、この動画を見ると好々爺化する外見と裏腹な衰えないフリップ先生のギターワークが堪能できる。

90年代以降はクリムゾンのステージで自分だけスポットライトを当てさせないという偏屈を貫いているためなかなか彼の演奏する姿が客席からははっきり捉えられないんだよね。

この動画の中で客席に写真を撮らないでくれと呼びかける場面があるが、昔トニー・レヴィンウェブ日記で読んだ、オフステージでファン二人組がフリップに写真を撮ってよいかと尋ねたときのフリップの返答を思い出した。

「ええ、結構ですよ。そこに私が写らないなら」

さて最後に件のロキノンのインタビューにおいてワタシが一番好きなフリップ先生の言葉を引用して終わろうと思う。

他の三人、四人と一緒に仕事をしていく上ではひっきりなしに緊張、不一致、矛盾、困難といったものが生じてくる。その結果として、我々は多くの場合、満足どころか極端な不満、不幸感を手にした。僕のキング・クリムゾン人生を一言で言うなら"悲惨"、この言葉に尽きるよ。本当だ。悲惨そのものだった。それなら何故やるんだ、と言われたら目的を持ってしまったから、としか答えようがない。僕の人生の目的は、幸福を追求することじゃない。そんなのはひどく浅薄な目的だ。幸福、不幸、そのどちらも同等に目的には関係のないものだ。

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