- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2010/07/21
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『エターナル・サンシャイン』の感想で、ワタシはチャーリー・カウフマンの脚本について以下の三つの特徴を挙げた。
- 小学生レベルの思いつきを実に見事なストーリーに昇華させている
- 心理学的アプローチを取る場面がびっくりするくらいつまらない
- 脚本として最終的に破綻している
『マルコヴィッチの穴』も『エターナル・サンシャイン』も好きだけど、それこそスパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリーのような反射神経の良い俊英が監督したからこそまともな映画の形になったのでは、とチャーリー・カウフマンという人にちょっと懐疑的だった。
そのカウフマン自身が監督も務めた本作については、やはり奇妙な設定の映画みたいなので、上に挙げたパターンがさらにグダグダになるか、あるいは(一部の評で指摘されたような)もったいぶった難解さに逃げた映画ではないかとあまり期待せずに観に行った。
結論から言うと、びっくりするくらい良い映画だった。
ワタシが愛するフィリップ・シーモア・ホフマンの演技が見事なのは当然として、何より本作は物語として破綻しておらず……いや、やはりしてるのかなぁ。でも、過去の作品にあったような後半の失速はまったくない。
本作は人生の秋と冬、つまり人間が中年期から死にいたるまでをある劇作家の遍歴を借りて描く。言っておくけど、主人公が再現するのは彼の脳内のニューヨークじゃなくて、彼自身を中心とする「人生」であり、びっくり箱的な面白さの映画ではない。しかし、その舞台のための演技と人生が重なり合い、奇妙な摩擦を起こすことで生まれるややこしさとそれに付随するユーモアに魅了された。
頭の良い人であれば、本作における演技、俳優、舞台、そしてメタ視点の意味について賢しらに語れるのだろうが、映画的教養に欠けたワタシにはそれはできないので、これは大した映画だと両手を広げて主張したい。もっとも、他の人にも同意してもらえる自信はない。
本作はハロルド・ピンターがノーベル文学賞を取った日の朝の7時44分にはじまり、そして最後にはやはり7時44分に至り、これ以上ない酷薄な言葉とともに終わる。そのトリッキーな意匠は人生の秋と冬における執着と意識の混濁を描くことに奉仕しており、同じく人生における秋に入った自覚がある当方は本作がすごく腑に落ちる感覚があった。