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博士と彼女のセオリー

機内放送で日本語吹替版を観た(吹替版しかなかった)。

本作でスティーヴン・ホーキング博士を演じたエディ・レッドメインアカデミー賞主演男優賞を受賞したが、それも文句なしの優れた演技だった。しかし、映画としては高くは評価しない。

まず本作は、ホーキングと彼の元妻であるジェーン・ホーキングの関係を主眼とする映画で、二人の出会いから始まるのだが、とにかくこの二人がすっごくキュートでチャーミングなんだよ! エディ・レッドメインフェリシティ・ジョーンズの二人は、まるでプリンスとプリンセスの組み合わせである。

しかし、ホーキングが筋萎縮性側索硬化症を発症してしまい、二人の試練が始まるのはご存知の通り。ジェーンは周囲の諌める声を押し切りホーキングと結婚し、子宝に恵まれるが(いや、これはすごいよな)、それでも小さな子供を抱えながら難病の夫を支え続けるのは大変な話である。

本作の欠点は、映画としてあまりに安易というか展開が読めること。ホーキング博士の伝記的知識に欠けるワタシですらチャーリー・コックスが出てきた瞬間に彼の役割が読めて、まったくその通りだったし、映画の中に一人の悪人も出てこないのもリアルさに欠ける。

何しろ存命中の大科学者を題材にするのだからあまりエグい描き方ができないのは分かる。ホーキングの研究についての十分な堀り下げを娯楽映画に求めることも間違っているのだろう。ホーキングのユーモアセンスはちゃんと描かれているが(それがときにジェーンの負担になったのも伝わる)、ジェーンの苦悩をもう少し掘り下げられたはずだ。

例えば、元々ホーキングは余命2年と宣告されたが、現実には(ご存知の通り)そうはならなかった。筋萎縮性側索硬化症という病気の性質を考えた場合、その宣告をした医者がヤブだったわけではなく、ホーキングの方が例外だと分かるのだが、2年で死ななかったからこそのジェーンの中での認識の齟齬というか、まだ生きてくれているという希望と、それと相反するいつまで続くんだという不安は描けたはずなのだ。

上にも書いたように、レッドメインとジョーンズの組み合わせがすっごくキュートで、それが見れただけでもワタシは満足である。映像も美しかった。しかし、本作は傑出した映画ではない。

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