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永い言い訳

西川美和という人は、ワタシの中の「新作が出たら映画館で観る人リスト」に入っているのだが、公開直後私事により時間がとれなかった。まだ公開から半月程度しか経っていないと思うが、ワタシの住んでるところのシネコンでは日1回上映になっていて、動員は思わしくないのだろうか、と余計なお世話ながら不安になった。なお、彼女による原作小説(asin:4167906708)は未読である。

これも個人的な事情になるが、この映画を観に行くまでに家族の問題で大変不愉快な目にあっており、せっかく久しぶりに映画館に行くのに、それまでの精神状態のために本作が楽しめなかったらどうしよう心配したほどだったが、さすがは西川美和というべきよい映画だった。もっとも映画館を出てから読まされたメールにより、元の精神状態に引き戻されてしまったが……。

バス事故死によって20年連れ添った妻を喪った夫である小説家が、同じく事故死した妻の友人の夫を介してその二人の子供たちとの世話をするようになる話なのだが、本作でも西川美和の演出は見事で、冒頭の髪を切る場面、本木雅弘演じる主人公が不愉快の色を増していく様(そして主人公のキャラクター)を不必要な台詞なしに描いていて、映画を通して妻を事故で亡くしながら本当の意味で悲しむことのできない主人公のみっともなさ、ずるさをよくえぐっていた。主人公と属性はほとんど重ならないものの、そうした男のずるさには自覚がある当方にも静かにグッとくるところがあった。

その男にとっての免罪符としての子育てを指摘する主人公のマネージャ役を池松壮亮をやっていたが、役柄的に少し『海よりもまだ深く』と被っていた感がある。そして、途中出てくる吃音の女性を演じていたのが山田真歩だと後から指摘されて、「花子とアン」で気が強い女流作家役だったあの人? とビックリした。こう書くと間抜けだが、役者ってすごいな。

そして、何より二人の子供を演じる子役がそれぞれうまかった! この二人が、主人公が逃げてきた本名を「幸夫くん」と呼び続ける声に叱咤され、主人公は他者と向かい合っていくわけである。

このように本作はとても満足度の高い映画だったが、(前二作より上映時間が短いものの)個人的には少し長かったように思う。それは本作が彼女の旧作と異なり、ハッピーエンドにもっとも近いからかもしれない。本作のタイトルの意味が分かるパーティの場面以降はいらず、主人公が帰途の電車の中で「人生は、他者だ。」とノートに書きつけるところで終わってよかったよかったと思う。

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