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すばらしき世界

以下、公開中の映画の内容に触れているため、ネタバレを気にする人は観てから読んでください。

西川美和の映画は、2006年に『ゆれる』を観て衝撃を受け、以後新作が出るたびに映画館に足を運んできた。前作『永い言い訳』から4年以上経って公開される新作は、彼女の映画で初めて小説原案(佐木隆三『身分帳』)とのことで、どんな内容か予想がつかなかったし、役所広司が主人公というのである程度安心感があったので、それ以外は事前に情報をできるだけ入れないようにして観た。

しかし、新作のタイトルが『すばらしき世界』と聞いて、一つ予想がつくことがあった。こんなタイトルが映画の最初にいきなり画面に映し出されるなんて想像できない。これは『ダークナイト』以降顕著に増えた(体感)映画の最後にどーんとタイトルバックを持ってくるパターンじゃないか、と思ったわけである。で、それで当たりだった。

上記のパターンの作品で、個人的に心を打たれた例に『アリスのままで』があるし、なるほどと思ったのは『メッセージ』(当然ながら原題がね)があるが、本作にはそうした予想の範疇に収まる弱さがある。例えば、誉める人が多い、梶芽衣子が歌う「見上げてごらん夜の星を」も、そうした意味で個人的にはさほど感心しなかった。

こうして最初にネガティブっぽい書いてしまったが、本作は素晴らしかった。何より役所広司演じる、直情的で不器用で、怒りっぽかったり調子が良かったり気分でころころと表情が変わる、つまり実に人間的な主人公がずば抜けて良かった。主人公と再会した仲野太賀がきっぱり「カメラはありません」と言い、その後西鉄バスが映った時点でワタシの涙腺は決壊し(そこで?)、後は大体泣きながら観ていた。

殺人の罪で服役した主人公娑婆に出たとき、彼の前に立ちはだかる壁の描写はしっかりリアルで、果たして主人公は更生できるのか、観ている側もハラハラしながら見守る形となる。彼はこの社会に順応できるのか、順応することが良いことなのか――本作が果たしてどういう結末になるかは映画館で観てくださいとしか書けないのだけど、登場人物がそれぞれ別の方向を向く中でカメラが空に切り替わり、タイトルが出るという最初に書いた話になるが、いや、これは傑作でしょう。

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