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ローレンス・レッシグ教授のインタビューがしみじみ興味深い

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の中でもローレンス・レッシグ先生の名前は何度も引き合いに出しているし、というかインターネットの自由と民主主義について考える上でひとつの規範であると言ってもよい。

しかし、彼の議論は単純ではないし、後で彼の著書を読み直して、そうだったの? と思うこともある。そうした意味で、このインタビューは読みやすいけれど、その慎重さも出ているし、レッシグ先生がこういうことを語るのかとしみじみなるところがある。

こうした力学では、ユーザーが好む情報だけが掲示されます。すると二極化が激しくなり、集団の共通理解がなくなり、民主主義を成立させるための対話ができなくなってしまいます。このようにして監視技術は民主主義の脅威となり得ます。これはインターネット技術そのものによる問題ではなく、広告のビジネスモデルに起因する問題です。監視社会であることが、ビジネスモデルを前進させる仕掛けになってしまっているのです。民主主義に害をもたらす、重要な課題だと考えます。

MIT Tech Review: ローレンス・レッシグに聞く、データ駆動型社会のプライバシー規制

インターネットのプラットフォーマー和製英語)のビジネスモデルが民主主義の脅威になっているという(現在広く共有されている)認識だが、そこでそれは広告のビジネスモデルに起因する問題であり、インターネット技術そのものの問題ではないときちんと言うところがレッシグ先生らしい。

しかし今日では、些細な嘘をつかずに暮らせません。利用規約を読んだという嘘、そこに書いてあるということに同意したという小さな嘘を日常的につかなければやっていけません。ほんの小さな嘘かもしれませんが、ともすれば平気で嘘をつける世代を育ててしまっています。それは40年前、ソビエト連邦の人々が生き延びるために日常的に嘘をついていたのとよく似ています。文化が個人の誠実さを浸食してしまうというのは大問題です。このことだけを取っても、サービス規約やアクセスの規制手段として同意という基盤を続けるのを断念する十分な理由になると思います。

MIT Tech Review: ローレンス・レッシグに聞く、データ駆動型社会のプライバシー規制

これを読んで、話の内容はまったく違うはずなのだが、ワタシはブルース・シュナイアーの「プライバシーの不変の価値」を思い出した。「文化が個人の誠実さを浸食してしまう」こと、そしてそれにより形骸化するものがいかに害になるか。

いかにしてユーザーの同意をより良いものにしていくかを目指すというのは間違った戦略です。同意を根拠としてプライバシーを取り締まるべきではありません。なぜならユーザーはデータがどう使われるか実際には理解できず、またその判断のために時間を割く余裕もないからです。ユーザー側でさまざまな意思表示をできるように気の利いた技法を目指す取り組みは、どれも無駄な努力に終わるでしょう。

MIT Tech Review: ローレンス・レッシグに聞く、データ駆動型社会のプライバシー規制

レッシグ先生は欧州の GDPR に代表される「個人データの主権を市民に委ねようとする新しい仕組みづくり」についても安易に賞賛はしない。「インテンション・エコノミー」が実現すればそれは素晴らしいのだけど、この下に引用する発言にあるようにそれは難しいし、実際ドク・サールズが本で紹介している取り組みには、結局失敗に終わったものが少なからずあるわけで。

これらの戦略は、人々に自由意志を行使する力を与えようと見せかけていますが、実際には誰の意思も表さないことがわかっています。なぜなら人々は選択するために必要な知識を持ち合わせていないからです。みな暮らしの中でやることは山ほどあり、実際には選択する立場でいられないのならば、それは本当の選択ではありません。

MIT Tech Review: ローレンス・レッシグに聞く、データ駆動型社会のプライバシー規制

これだけ読むとレッシグ先生も人間を見る目が暗くなったと思う人もいるかもしれないが、水野祐さんが指摘するように「行動経済学的な知見の影響」とみるのが妥当なんでしょうか。

この後はレッシグ先生がこの10年取り組んできた(アメリカの)政治腐敗に関わる制度的な問題に絡んだ話になるが、思えば今年彼の本が2冊も出るわけで、マイケル・サンデルロジャー・マクナミーティム・ウーショシャナ・ズボフ(もっともレッシグ先生は、彼女が提唱する「監視資本主義」のコンセプトに批判的みたいだが)といった錚々たる面々が推薦の言葉を寄せる『They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy』のほうは邦訳が出ないといかんのではないかと思うわけである。どこか版権取得に動いてないんですかね。

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy (English Edition)

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy (English Edition)

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