ウェブの標準化団体である W3C が、2017年にウェブに DRM 規格をもたらす Encrypted Media Extensions(EME)を認可し、それによって競争力のある独立系ウェブブラウザの終焉がもたらされた、という文章である。
この文章を知ったのは Boing Boing だが、そのエントリを書いているコリィ・ドクトロウは、W3C の EME 認可方針を2016年時点で痛烈に批判している。
現状は、当時ドクトロウが予見した通りだったとも言えるわけだ。
EMEの標準化以後に登場する新たなブラウザは、これまでとは根本的に異なった世界に産声をあげることになる。それらのブラウザがW3Cに定義されたコンテンツを受け取り、表示させるためには、CDMを作る資格を持つ一握りの企業と商業的なパートナーシップを結ばなければならない。
相互運用性とW3C:未来を現在から守るために / コリィ・ドクトロウ | P2Pとかその辺のお話R
そして、それは独立系ウェブブラウザの競争力を事実上奪ったというわけである。
しかし、なんで W3C は DRMをウェブに許容したのか? ということになる。そのメリットはあったのか?
あったとは言える。Netflix や Hulu といったストリーミング映像配信サービスは、これで著作権コンテンツに保護をかけて配信できるようになった。が、それによって、そうした大企業とライセンス契約を結んだブラウザベンダに配信先が絞られることになる。
具体的には、ブラウザは暗号化されたメディアを再生するために互換性のある Content Decryption Module(CDM)を提供しなくてはならない。そして、その CDM の選択肢は実質 Widevine(Google)、PlayReady(マイクロソフト)、FairPlay(Apple)という3つしかない……って、Edge ブラウザが Chromium の軍門に加わることで Widevine 支配がさらに強まるのかな(Firefox や Brave も Widevine を採用)。
でも、ちょっと待った。「開かれたウェブ」なんだから、新たに CDM を独自開発すればいいんじゃないか?
残念ながら、現実はそんな簡単ではない。CDM はウェブで DRM を実現するごく一部に過ぎない。詳しくは元エントリを読んでいただくとして、DRM の障壁が独立系ウェブブラウザにどういう影響を与えているかのリストは悲しいものがある。
イノベーションには競争が必要だし、新規参入者によりアクセス可能な余地を残すには、DRM の障壁を変える必要がある。究極的には、社会にとって最良なのは一斉に DRM を捨て、Google やマイクロソフトや Apple が、腐ってしまったウェブプラットフォームを正すために立ち上がるべきだと著者は閉めている。もちろんそれが実現しそうにないことも著者は分かっているが。