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2020年においてもオープンソースの持続可能性、そしてビジネスモデルは一筋縄にはいかない

www.techrepublic.com

Slashdot で知った記事だが、タイトルの通り、オープンソースの持続可能性、そしてはそれは単純ではないという話である。

この記事の執筆者は Matt Asay で、彼はおよそ10年前に Canonical の COO を退任しているが、現在は AmazonAWS 部門で働いているのね。

その彼は最近、オープンソースプロジェクトのメンテナに何人もインタビューしたそうだが、そのインタビューイの大半はプロジェクトのサポートでお金を得ていないという。企業から開発に専念できるよう資金援助の申し出がある人もいるがそれは例外的な存在である。

オープンソースの開発やメンテナンスを無償でやってるのは悪い話か? というと話はそう単純ではない。

Linux Foundation の要職にある Chris Aniszczyk は、寄付でオープンソースプロジェクトを維持するモデルを「オープンソースのギグエコノミー、チップ入れ」と呼び、それはスケールしないと否定的な立場をとる。仲間と会社を立ち上げてそれをビジネスにするべきというのが彼の考えである。

しかし、オープンソースとのかかわりを9時5時の会社仕事にしたくないと考える開発者が多いことも予想できるわけで、そういうわけで「オープンソースの持続可能性」に唯一の正答は存在せず、一筋縄にはいかない。

Matt Asay がインタビューしたオープンソースプロジェクトのメンテナたちの大半は、空き時間を費やす「楽しみ」としてオープンソースに関わりだしており(Just for Fun ですね)、その対価を受けることは期待してなかった。

Chris Aniszczyk の考えは、ここでオープンソース開発者の現実とぶつかる。(会社を作って)給料をもらうことこそもっとも持続可能性のある収入源であるという彼の考えは合理的ではあるが、そもそも開発者の多くはそれを必ずしも望んではいない。

ならば企業はどうすればよいのか? オープンソースプロジェクトを支援したい企業は今では多いが、その支援方法は必ずしも明白ではない。この文章では musl libc(Linux 向け標準 C ライブラリ)の Rich Felker などの事例、PowerDNS や(Wireshark の作者 Gerald Combs を抱える)Riverbed の事例が企業がオープンソースプロジェクトを独占せずに折り合いをつけている事例が紹介されているが、やはりオープンソースの持続可能性の答えは一つではなく、プロジェクトごと、コミュニティごとに考える必要があるというところに立ち戻ることになる。

www.oreilly.com

続いては、Chef の共同創始者にして CTO だった Adam Jacob やマイク・ルキダスなどが著者に名前を連ねる「オープンソースのビジネス」についての文章である。

基本的には Adam Jacob による Chef のライセンスの「オープンコア」モデルから「Red Hat」モデルへの変更についてのコメントとそれに対する Nat Torkington の反応が中心なのだが、その前提として(これは上でリンクしたマイク・ルキダスの文章でも問題になっている)Amazon などの主要なクラウド企業が、オープンソースを都合よく利用しながら(そのオープンソースソフトウェアのライセンスはそれを妨げることができない)、オープンソース企業への不安と恐怖を煽っている問題である。

Stephen O'Grady はこれを「クラウドとオープンソースの火薬庫」という言葉で表現しているが、クラウド企業の動きに対して、オープンソース企業の多くはライセンスと配布モデルを変えて対抗している。その変更とはすなわち、ソフトウェアが少しオープンではなくなるということだ。

フリーソフトウェアの ElasticSearch に独占的なコンポーネントを付けて配布する Elastic がその一例だが、Chef はそれとは違う方向性を模索している。Chef は2019年4月にオープンソース宣言を行っているが、それは一つ落とし穴(という表現は悪いが)がある。Chef は商標登録されており、そのソフトウェアを再配布するのは可能だが、その際それを Chef と呼んではならない。このやり方は Red Hat のモデルに倣ったものである。

で、持続可能性のあるオープンソースコミュニティについて The Sustainable Free and Open Source Communities Book という本を執筆している Adam Jacob は、この決定時点で彼は Chef を離れていたにも関わらず、彼はその決定を支持しているんですね。

つまり、彼はその決定がオープンソースソフトウェアで健全なビジネスをやるのに重要だとみているわけなのだが、その根拠については(特に Nat Torkington とのやりとり)原文を読んでくだされ。

それを受けてこの文章の著者(多分、マイク・ルキダス)は以下のように書いている。

数年前、オライリーOSCon のテーマは「オープンソースは勝利した」だった。確かに、新しいプログラミング言語にしろ、新しいウェブのフレームワークにしろ、新しいデプロイメントツールにしろ、機械学習の新しいライブラリなどにしろ、それがオープンソースでなくて成功すると考えるのは難しい。我々の考え方は変わったのだ。しかし、いつにしろ早まった勝利宣言は危険だし、この30年オープンソースは異端の運動から主流に変わってきたとはいえ、オープンソースのビジネスモデルは未だ課題だらけである。Chef から Elastic まで多様な企業が新しいモデルを試みている。Chef のモデルはオープンで、明快で、なおかつ強力なコミュニティを作ることを目指している。

というわけで、オープンソースの持続可能性にしろビジネスモデルにしろ、全方位的に歯切れのよい話はそうそうないわけである。両者についての話は今になって持ち上がったものではなく、それこそこの20年、何度も議論されてきたことである。後者について最初に本格的に論じられたのはエリック・レイモンドの「魔法のおなべ」だと思うが、それ以降これを刷新する決定版となるオープンソースのビジネスモデルについての論考はあるのだろうか。

伽藍とバザール

伽藍とバザール

  • 作者:E.S.Raymond
  • 発売日: 2010/07/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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