コリイ・ドクトロウの Pluralistic で紹介されているのを見てから、ダグラス・ラシュコフの新刊 Survival of the Richest を取り上げようと思いながら、微妙にチャンスを逃していたのだが、ありがたいことにクーリエ・ジャポンで記事になっていた。
ダグラス・ラシュコフの新刊は、2018年に彼が5人の謎めいた億万長者から砂漠のリゾートに招待されて、これから来たる社会の大惨事をどう生き抜くか相談を受けた話から、火星探査、AI フューチャリズム、メタバースといったトピックがこの「世界でもっとも富める者の生き残り」に結びついているかを論じ、そうした富める者たちの利己的な生き残りファンタジーではなく、人間のコミュニティ、相互扶助の意義を問い直す本である。
これは、それを活用できる人にとってはデジタル天国だが、取り残された私たちにとってはまったく別のものだ。すべてをデジタル化できると信じる人々は、自分自身をもメタ化してデジタル形態に変換し、人工知能やマインドクローンとしてその領域に移住することを目指す。そこでは物理的な空間ではなく、デジタル地図の中で生活し、気に入らないものは消去していく。
私たちが所有するGPSマップがすべてを表示するわけではないのと同様に、彼らが移住したデジタル世界には、貧困や汚染など私たちが対処しなければならないものは何もないだろう。この物語は、相変わらず金持ちや賢い人などによる「脱出」だ。一般人には関係がない。
ダグラス・ラシュコフ「いつからデータは人間よりも価値を持つようになったのか」 | 新著『サバイバル・オブ・ザ・リッチェスト』で書かれたこと | クーリエ・ジャポン
このくだりなど、「メディアとしてのメタバースのメッセージを(ニコラス・カーが底意地悪く)読み解く」で書いた、マーク・ザッカーバーグやマーク・アンドリーセンの思想についてのニコラス・カーの分析にかなり近いと思うのよね。
また、イーロン・マスクによる Twitter 買収後のごたごたに付随して、彼の危険性もだいぶ周知されたように思うが、ラシュコフの論の射程にはもちろん火星移住計画を進めるイーロン・マスクも入っている。
ダグラス・ラシュコフも一時期はほとんど邦訳が出なくなっていたが、最近は堺屋七左衛門さんの翻訳で『ネット社会を生きる10ヵ条』や『チームヒューマン』が出ているので、この新刊も邦訳が出てほしいところ。