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邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2023年版)

私的ゴールデンウィーク恒例企画である「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」を今年もやらせてもらう(過去回は「洋書紹介特集」カテゴリから辿れます)。

ワタシのブログの読者でも誰も気づいていないと思うが、一年前の2022年版をやった後、ワタシは本ブログにひとつの縛りを課してきた。

このブログはだいたいにおいて、(今回のようにひとつのエントリが特に長大な場合をのぞき)一度の更新で5つのエントリを公開するのだが、そのうちの最低ひとつは洋書を紹介するエントリにしてきた……と文章で書くとなんでもなさそうだが、これはなかなかに高いハードルだった。この一年、その縛りをまっとうするために洋書に関するアンテナを張ってきた感じである。

その代わりといってはなんだが、その縛りのおかげで今年の「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」は、過去エントリを紹介するだけで苦も無く30冊の洋書(プラス執筆中の書籍ひとつ)を紹介できるのである。毎年書いていることの繰り返しだが、洋書を紹介してもアフィリエイト収入にはまったくつながらない。それでも、誰かの何かしらの参考になればと思う。

こちらの調べが足らず、実は既に邦訳が出ていたり、またこれから出るという情報をご存知の方はコメントなりで教えていただけるとありがたいです。

ライアン・ノース(Ryan North)『How to Take Over the World: Practical Schemes and Scientific Solutions for the Aspiring Supervillain』

ランドール・マンローと同じく、じきに早川書房から邦訳が出ると思うが、本についての情報は公式サイトをあたってください。

ジェイミー・バートレット『The Missing Cryptoqueen: The Billion Dollar Cryptocurrency Con and the Woman Who Got Away with It』

ジェイミー・バートレットの本はだいたい邦訳が出ているのでこれも間違いないと思うが、暗号通貨とネズミ講の組み合わせによる詐欺というのは、とても教育的な効果がある事例ではないだろうか? しかし、この「クリプトの女王」、数百億円の資産でもって地中海に浮かぶ超豪華ヨットで暮らしているらしいってスゲェ話だよな。

最近ではポッドキャストもすっかりエッジを失っちゃったねという声もあるが、犯罪実録もののポッドキャストアメリカで本当に人気で、本書のようにその書籍化、ドラマ化もすっかり一般的になっている。

デヴィッド・グレーバーPirate Enlightenment, or the Real Libertalia

デヴィッド・グレーバーの本というと、昨年末に『価値論 人類学からの総合的視座の構築』(asin:4753103714)が出ているが、これも以文社から出るんじゃないかな。

Ari Ezra Waldman『Industry Unbound: The Inside Story of Privacy, Data, and Corporate Power』

著者の前著である『Privacy as Trust: Information Privacy for an Information Age』(asin:B07B7N1T8D)は、斉藤邦史氏の論文「プライバシーにおける「自律」と「信頼」」でも言及されているが、そろそろプライバシーについてのしっかりした本の邦訳がほしいところ。

本についての情報は著者のサイトの公式ページを参照ください。

クエンティン・タランティーノCinema Speculation

タランティーノといえば、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の監督みずからによる小説化の邦訳『その昔、ハリウッド』が今月出ますね。

映画本のほうもすぐに邦訳が出るかと思ったが、分量もそれなりなのでそう簡単にいかないか。

さて、かねてより最後になると告知されてきた10作目の監督作が、なんとポーリン・ケイルを主人公とする The Movie Critic になるというニュースにかなり驚いたものだ。やはりこれはポーリン・ケイルスタンリー・キューブリッククリント・イーストウッドをぶち殺してまわる映画になるんだろうか?(冗談です)

ケイト・ブランシェットが演じるという噂が実現してほしいな。

ヴェルナー・ヘルツォーク『Das Dämmern der Welt(The Twilight World)』

ヴェルナー・ヘルツォークというと、昨年『氷上旅日記』の新装版(asin:4560094551)の邦訳が出ていますね。なんといっても小野田寛郎を題材に書かれた小説ということで、来年あたり邦訳が出るのではないでしょうか。

ヘルツォークも既に80代だが、近年も日本で映画を撮ったり、昨年も雲仙岳で亡くなったクラフト夫妻を描いたドキュメンタリー映画が公開されたりと、未だ精力的で敬服してしまう。

ロバート・フリップ『The Guitar Circle』

今ではトーヤさんとの夫婦漫才シリーズがすっかり有名になってしまったし、今年の秋はそのツアーをイギリスで行うようだが、その一方で初の著書を発表するなどしっかりした仕事もやっていて侮れない……とでも思わないとやってやれないよ!

The Guitar Circle

The Guitar Circle

Amazon

マイケル・ヘラー(Michael Heller)、James Salzman『Mine!: How the Hidden Rules of Ownership Control Our Lives』

本の公式サイト。なんといっても共著者のマイケル・ヘラーは『グリッドロック経済――多すぎる所有権が市場をつぶす』(asin:4750515639)の著者なので、強すぎる所有権の弊害を説くものなのは間違いない。日本でこの二人の文章で邦訳されているのは、「イーロン・マスクは、なぜ特許の取得に無関心なのか 権利の所有が利益に直結するとは限らない」くらいかな。

ジャレド・ダイアモンドやキャス・サンスティーンなどが推薦の言葉を寄せていているが、『グリッドロック経済』からどれだけ議論を先に進めているかが邦訳が出るかのポイントでしょうかね。

デーヴィッド・マークス『Status and Culture: How Our Desire for Social Rank Creates Taste, Identity, Art, Fashion, and Constant Change』

今年に入って、NIGO代表取締役 CEO 兼クリエイティブディレクターを務めるオツモ株式会社の社外取締役選任がニュースになったが、彼の新作は『AMETORA(アメトラ) 日本がアメリカンスタイルを救った物語』(asin:4866470054)と違って日本の話ではないので、邦訳はどうでしょうかね。

アンドルー・ペティグリー(Andrew Pettegree)、Arthur der Weduwen『The Library: A Fragile History

図書館の歴史についての本というだけで、これは絶対に面白いだろ! と思うので、邦訳が出てくれるのを願うばかりである。

それはそれとして、Internet ArchiveBook Talk はワタシの興味のある分野の本を取り上げることが多いので重宝している。

コリイ・ドクトロウRebecca Giblin『Chokepoint Capitalism: How Big Tech and Big Content Captured Creative Labor Markets and How We'll Win Them Back』

コリイ・ドクトロウBoing Boing を離脱して立ち上げたブログ Pluralistic は(文章内容ではなく)ライティングスタイルがどうしても好きになれないのだが、heatwave_p2p さんの翻訳のおかげでコリイ・ドクトロウの文章を日本語で読めることが多くてありがたい。

最近も「メタクソ化するTiktok:プラットフォームが生まれ、成長し、支配し、滅びるまで」とか最高だったよね。

『チョークポイント資本主義』だが、このブログでもおなじみの人たちが推薦の言葉を寄せているが、マーガレット・アトウッドにはさすがに驚いた。

マイケル・ペイリン『Into Iraq』

マイケル・ペイリンの旅行本の邦訳は、20年以上前に『ヘミングウェイ・アドベンチャー』(asin:4916199294)が出ただけなので、本作についても邦訳は期待できないが、彼のイラク旅行のテレビ番組のほうは日本のどこかのチャンネルで見れないのだろうか?

Tara Dawson McGuinness、Hana Schank『Power to the Public: The Promise of Public Interest Technology』

日本ではまだ「公益テクノロジー」という言葉自体、人口に膾炙したとはいえないのだが、そういえば今年3月に英語版 WikipediaPublic interest technology のページができており、なかなか内容が充実している。もちろん Further reading の最初にこの本が挙げられている(『シビックテックをはじめよう』も入っているね)。

ブルース・シュナイアー『A Hacker's Mind How the Powerful Bend Society's Rules, and How to Bend them Back』

こないだ「邦訳の刊行が期待されるのに未だ出てないのが残念な洋書10冊を改めて紹介」でも書いたが、前作の邦訳が出ないうちに新作が出てしまったねぇ。

この新作の詳しい内容は著者による公式ページを参照あれ。書名からコンピュータネットワークに侵入するハッカーについての本かと思いきや、小林啓倫さんの「ChatGPTに議員宛の陳情を書かせてみたら……、民主主義をハックするAIの恐怖 短時間・低コストで世論の捏造やロビー活動も可能なAIにどう向き合うべきか」で触れられている「民主主義のハッキング」まで含む開口の広い本である。

ラルフ・マッチオ『Waxing On: The Karate Kid and Me』

↑のエントリでも書いたように、『コブラ会』はシーズン5はパスさせてもらったのだが、ドラマはまだ続いているようだし、ラルフ・マッチオMCU のようなユニバース化の可能性を語るなど好調が続いているようで何よりである。

Karen Bakker『The Sounds of Life: How Digital Technology Is Bringing Us Closer to the Worlds of Animals and Plants』

著者による公式ページ。これ面白いと思うんだよね。著者のカレン・バッカーについては、上記のエントリを書いた後で Wired に「デジタル生物音響学で自然に耳を傾け、生態系を再生する」という彼女の記事が掲載されている。

そうそう、こないだ「Googleが協力する「AIを使った動物とのコミュニケーション」を実現させる試みが進行中」という記事を読んだが、これがまさにカレン・バッカーが取材した非営利団体 Earth Species Project の話ですな。

ジェニー・オデル(Jenny Odell)『Saving Time: Discovering a Life Beyond the Clock』

ジェニー・オデルの『何もしない』は静かな衝撃作だったので、これも邦訳が出ると思うんだけど、そういえば彼女が Long Now 財団のために行った講演動画が先日公開されている。

YouTube の自動翻訳字幕でだいたい分かります。

Torie Bosch編『"You Are Not Expected to Understand This": How 26 Lines of Code Changed the World』

こういう新旧を網羅したプログラミング歴史話は需要があると思うので、邦訳が出てほしいところである。

それでは編者による紹介動画をどうぞ。

ジョン・マルコフ(John Markoff)『Whole Earth: The Many Lives of Stewart Brand』

WirelessWire News に書いた後に、あの方からこの本の邦訳についての情報を教えてもらえた。いずれ出ると思いますので、乞うご期待!

Charles Leershen『Down and Out in Paradise: The Life of Anthony Bourdain

アンソニー・ボーディンの本は日本でも何冊も出ているので、この(遺族非公認の)伝記本の邦訳も出てほしいところだが、彼の伝記映画も公開されなかったので難しいかな。

この本の記述を受けてアーシア・アルジェントが自責の念を表明したりしている。

ジェームズ・ライゼン(James Risen)『The Last Honest Man: The CIA, the FBI, the Mafia, and the Kennedys—and One Senator's Fight to Save Democracy』

昨年、NHK の「未解決事件」の「ロッキード事件」を部分的に見たが(初回放送は2016年だったのね)、未だにこの事件には謎も多いので、そうした意味でチャーチ委員会の委員長だったフランク・チャーチの伝記本の邦訳は価値がありそうなのだが、やはり難しいですかね。

マーク・クーケルバーク(Mark Coeckelbergh)『Robot Ethics』

このエントリを書くために調べものをしたところ、↑のエントリで紹介した『The Political Philosophy of AI: An Introduction』の邦訳『AIの政治哲学』が7月に出るのを知った。

これで↑のエントリで紹介した4冊中2冊の邦訳が出ることになるが、『AIの倫理学』と対になる(版元も同じ)『ロボットの倫理学』の邦訳も出てほしいところ。

James Wright『Robots Won't Save Japan: An Ethnography of Eldercare Automation』

これは題材的に来年には邦訳が絶対出ると思うが、それまで待てない方は、著者の講演動画をご覧ください。

これも YouTube の自動翻訳字幕でなんとかなる。

メレディス・ブルサード(Meredith Broussard)『More than a Glitch: Confronting Race, Gender, and Ability Bias in Tech』

これも非常に時宜を得たテーマなので翻訳が期待される本である。著者はパンデミックが始まった頃、乳がんと診断され、その診断に AI が使われたことを知った彼女は、AI ががんをどれほど正しく診断できるかをさらに明らかにするために自身で実験をしたというのはすごい話やね。

Kelly Shortridge、Aaron Rinehart『Security Chaos Engineering』

↑のエントリでは「今夏に刊行予定」と書いたが、珍しく前倒しされたようで、紙版は5月16日刊行予定、Kindle 版は……3月末に刊行されてるみたい。電子書籍のほうが先に出るというのは、洋書の世界でも珍しいことじゃないかな?

分量も値段もかなーりの感じなのが気になるが、ここはオライリー・ジャパンから邦訳が出ると信じたいところ。

本についての情報は本の公式サイトを参照ください。

グリン・ムーディ(Glyn Moody)『Walled Culture: How Big Content Uses Technology and the Law to Lock Down Culture and Keep Creators Poor』

何しろ電子版を無料で入手できる本なので邦訳は難しいかもしれないが、結構な力作なので惜しい気もする。

というか、本全体が豪気なことに CC0 ライセンスなので、どなたか訳して公開してくれないものだろうか。

Heather Ford『Writing the Revolution: Wikipedia and the Survival of Facts in the Digital Age』

著者のヘザー・フォードは、かつて iCommons 事務局長として来日していたし(参考:ニコニコも初音ミクも語られた!クリエイティブ・コモンズ)、2007年から2009年にはウィキメディア財団の Advisory Board も務めており、オープンカルチャーの専門家といえる。

2011年のエジプト革命に関するウィキペディアの記述の変化とその背景にある権力闘争についての考察という題材は地味に思えるかもしれないが、ウィキペディアのページがどのように記述編集されるかを長期的に追った本というのは貴重なので邦訳が出てほしいね。本についての詳しい情報は著者による公式ページを参照ください。

オードリー・タン、グレン・ワイル(Glen Weyl)、Plurality Community『Plurality:Technology for Collaborative Diversity and Democracy』

未だ執筆中の、果たして完成するかどうかも分からない本を取り上げるのは反則かもしれないが、期待を込めてということで。

これも CC0 ライセンスなので、書籍として刊行されなくても有志が日本語訳を公開してくれるのではないかな。

「Plurality」という単語はなじみがないかもしれないが、それについてはグレン・ワイルの「デジタル・デモクラシーによって多元主義を実現する」や、先日開催された Plurality Tokyo におけるオードリー・タンによる基調講演(日本語字幕あり)が理解の手助けになるだろう。


スチュワート・ラッセル(Stuart J. Russell)、ピーター・ノーヴィグ『Artificial Intelligence: A Modern Approach, 4th US ed.』

要は、第三版から出ていない邦訳を第四版で出してくださいよということです。

そういえばスチュワート・ラッセルといえば、「人間より“強力”な人工知能の到来を前に考えておくべきこと」というインタビュー記事がこないだ出てましたね。

ジョエル・コトキン(Joel Kotkin)『The Coming of Neo-Feudalism: A Warning to the Global Middle Class』

ネオ封建主義、デジタル封建主義、テクノ封建主義、まぁ、呼び名はいろいろあろうが、これがまさに顕在化していると思うわけですよ。

エマニュエル・トッドの記事に以下のくだりがあり、およそ10年前からジョエル・コトキンには封建主義への道が見えていたことが分かる。

2014年に刊行された予知的な作品『新たな階級紛争』の中で、カリフォルニア在住の著者ジョエル・コトキン(米国の都市研究者、1952年生まれ)は思慮深くも、シリコンバレーの起業家たち──グーグル、アマゾン、フェイスブックなどのトップたち──の内に、彼らの年齢の若さにもかかわらず、また、彼らが自らに与えているモダンで、流行の最先端にいるイメージにもかかわらず、寡頭支配者としての素質があることを見抜き、それがすでに明確な形をとりつつあることを指摘した。

エマニュエル・トッド「ピーター・ティールには人間的興味を覚える」 | イーロン・マスクやジェフ・ベゾスにはまったく関心がないが… | クーリエ・ジャポン

この一年間、ブログ更新時には必ず洋書を紹介してきたわけだが、さすがにこの縛りはここまでとしたいと思う。けれど、このようにコンスタントに洋書を紹介していると、「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」をスムーズに書けるのが分かったので、今後も気になった洋書をブログで取り上げていきたいと思う。

それでは皆さん、楽しいゴールデンウィークをお過ごしください。

[追記]:

以下、ここで取り上げた本の邦訳が出たのを紹介するエントリをはりつけておく。

yamdas.hatenablog.com

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