昨年観に行きたかったが都合が悪くて行きそびれ、悔しく思っていた。が、年末年始のナショナル・シアター・ライブ10周年記念アンコール上映のおかげで、もうすぐ取り壊しになる大洋映画劇場でようやく観れた。
NTLive の作品を映画館で観るのはこれが初めてで、3000円の料金には、正直、目を疑った(笑)。
本作の舞台は、1968年のアメリカ大統領選挙戦である。三大ネットワークでどんけつの ABC がなんとか視聴率をとろうと、保守派のウィリアム・F・バックリー・ジュニアとリベラル派のゴア・ヴィダルによるテレビ討論番組を企画し、それが大変な評判になるが――という話だが、パワフルかつ辛辣なユーモアにあふれ、もう滅茶苦茶面白かった!
このときのアメリカ大統領選挙は、共和党がリチャード・ニクソンでまとまったのに対し、民主党は有力候補だったロバート・ケネディ暗殺事件後の混乱で党が分裂状態となり、党大会では流血の惨事まで起きてしまう。そちらについては『シカゴ7裁判』が詳しいし、あと本作の片方の主役ゴア・ヴィダルについては、川本直の傑作『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(asin:4309420206)が参考になるだろう。
ボクシングの対決に模されるウィリアム・F・バックリー・ジュニアとゴア・ヴィダルの舌戦は、討論として最終的に破綻してしまうが、この劇はそこからが素晴らしい。この討論のことを終生悔い、決して番組を振り返ろうとしなかったバックリーに対し、番組のビデオを入手して何度も観直し、そして何も悔いなかったヴィダルの対比がいかにもで、それに説得力を与えるデヴィッド・ヘアウッドとザカリー・クイントの演技がいずれも見事。その後決して顔を合わせることのなかった両者……いや、実際はそうではなく――という終わり方も余韻があってよかった。