ここ数年、半年に一度やっているエントリ(前回、2023年上半期)で2024年を始めたい。近作のみ取り上げる。
プロミシング・ヤング・ウーマン(Netflix)
キャリー・マリガンは『17歳の肖像』でブレイクした後、『わたしを離さないで』や『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』で良い役をやっているのを観ているが、それから少し彼女の出ている作品から遠ざかっていた。
イヤなものを見せられるような気がして、正直、本作のことは避けていたところがある。実際観てみると、どういう形でも性的に消費させないという強い意志に貫かれており、シャープな作りだった。主人公に成敗(?)される加害者役が、好感度の低そうな男性でないキャスティングも考えられている。
『バービー』を観た後だと、マーゴット・ロビーが本作のプロデューサーを務めているのもやはり強い意志の表れであるのが分かる。
アメリカン・ユートピア(公式サイト、Netflix)
絶対に映画館で観たいと思いながら都合がつかずに悔しい思いをしていたので、Netflix で観れるとなって大喜びで飛びついた(既に配信終了)。しかし、やはり映画館で観たかったな。
本作の出来については既にいろんな人が書いており、ワタシが特に付け加えることはないのだが、これが映像作品として成立するのは、映画に先立つ同名アルバムが、デヴィッド・バーンのネームバリューだけに頼らない作品としての力があるからだろう。
あまり言われないが、アルバム『アメリカン・ユートピア』は、ほぼ全曲バーンとブライアン・イーノの共作なのをはじめ、プロデュースにも名前を連ねており、かなりイーノの貢献が大きいアルバムなのである。
メンバーが客席を練り歩いても、それにスマートフォンのカメラを向ける客が一人くらいしかいない客層の節度と、メンバーが自転車で帰っていく最後が印象的だった。
アンカット・ダイヤモンド(Netflix)
これ、もう「近作」とは言えないか? A24 全盛期の作品。
とにかく騒々しい映画で、登場人物が主人公をはじめとしてとにかくうるさい。
アドレナリン中毒な主人公がひたすら掛け金を上げに上げた結果、実に良い笑顔を浮かべたまま(中略)映画である。
ロケットマン(公式サイト、Netflix)
公開時は『ボヘミアン・ラプソディ』の二番煎じかなと行きそびれた。
実際、『ボヘミアン・ラプソディ』と同じく歴史考証の問題(エルトン・ジョンの芸名の由来、あるライブの時点でリリースされていない曲を歌う)があるのだが、感じの悪い主人公を描いて映画として成功しているのに唸った。
本作は、"I'm Still Standing" で復活するところで終わるが、彼が現在のリスペクトを得ているのは、実はその後の90年代以降の活動が大きいわけで、個人的にはそこを描いてほしかったが、伝記映画としては退屈か。
悪人伝(公式サイト、Netflix)
ヤクザの組長と荒くれ者の刑事が組んで連続殺人犯を追う、その組長を『新感染 ファイナル・エクスプレス』のマ・ドンソクが演じているのだから面白いに決まっているのだが、本作に関しては少し期待値が上がり過ぎていたかもしれない。
『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』(Netflix)
2023年には『アステロイド・シティ』があったが、それとは別に Netflix で短編が4本公開されるというので、『ネズミ捕りの男』、『毒』、『白鳥』含め観させてもらった。
これも紛れもなくウェス・アンダーソンの箱庭映画で、というか短編ということで、もはや第三の壁もへったくれもなく、主人公がひたすらこちらを向いて早口でしゃべり続ける基本構成に、舞台劇というかなにか落語や狂言のようなものを観ている感もあった。
執拗に枠物語の構成をとるところもウェス・アンダーソンという感じで、『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』がやはりもっとも楽しめたが、もっとも優れていたのは『白鳥』かも。
ザ・キラー(Netflix)
マエストロ: その音楽と愛と(Netflix)
本当は『ザ・キラー』と同じく映画館で観るつもりだったが、その直前に仕事の電話が入っため行けなかった。
ブラッドリー・クーパーが監督の才能があるのは、『アリー/スター誕生』で分かっている。あれと同じく音楽劇の部分、特にミュージカルっぽい演出のところが良かった。
全編そういう演出で押し切っても良かったのかもしれないが、画面が白黒からカラーに移ってからは、レナード・バーンスタインの業績を讃える伝記映画への期待から意図的にズレる夫婦劇になる。ブラッドリー・クーパー、キャリー・マリガン、いずれの演技も素晴らしい。が、後半、観ていて少し緊張感が切れてしまったところもある。
終わらない週末(Netflix)
実は新年あけてからの鑑賞なのだが、本作までを2023年までとしたい。本作は2023年の映画だ。
当然ながら、本作のようなハリウッドスターが主役をはる映画は、何年もかけたプロジェクトになる。それでも本作は、2021年の『ドント・ルック・アップ』とはまた違った形で予見性を持った作品になっている。
Netflix 配信作品では『ナイブズ・アウト: グラスオニオン』に続いてイーロン・マスクを信用するなというメッセージもあるし、ラストシーンは実は(『ブラック・ミラー』シーズン6ほどではないが)Netflix にも中指を立てている。
人種間の不信と分断、侵略に対するパラノイアなどアメリカ社会を描いているが、ローティーン、つまりはZ世代である主人公夫婦の娘くらいの年代の女性にとって、『フレンズ』ってどういう意味合いがあるのだろうな。