一年半ほど前に「ノーベル賞作家ソール・ベローの訃報を聞き、小島信夫について思いをはせる」というエントリを書いているが、その小島信夫が死去した。
小島信夫に関して個人的に印象に残る話として、遠藤周作が死んだときの追悼座談会で(確か)安岡章太郎が言っていたものがある。小島信夫が芥川賞を取ったとき、如才ない吉行淳之介は土産をもってお祝いに出向いた。住所は聞いていたが、なかなか彼の家がみつからない。しばらくしてはっと気付いたのは、この家は立派だからまさか彼の家ではあるまいと最初に頭から除外した目印となる家が実は彼のものだったということ。
それは家が高台にあるから立派に見えただけだよとその座談会で小島は笑っているし、彼が「第三の新人」で括られる人たちの中で最も年長だったのもあるとは思うが、やはりそれを語る安岡らの頭の中には『抱擁家族』があったに違いないとワタシは睨んでいる。
- 作者: 小島信夫,大橋健三郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1988/01/27
- メディア: 文庫
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不安を主調としながらも辛辣なユーモアが垣間見える文体からなるこの小説をなんと表現したものだろう。なんともとらえどころのない小説だが、少なくともワタシにはとても怖い本である。『戦後短篇小説再発見〈10〉表現の冒険』に収録された「馬」もそうだが、ワタシには『抱擁家族』は一級のホラー小説なのだ。
そういえば『殉教・微笑』(asin:4061962515)も以前から積読のままだった。ちゃんと読まないと。あと『別れる理由』はやはり講談社文芸文庫から出ないな。
筒井康隆の『笑犬樓よりの眺望』(asin:410117136X)の「実はおれも「ゲケツ」した」(『噂の真相』1989年2月号初出)に、小学館主催の講演会で小島信夫と一緒になったときの話がある。
小島さんは「小説とは何をどう書いてもいいものである」というおれの主張を、おれなどよりずっと前から実践している作家で、いささか敬愛の念を抱いていた。別れる際、「では、またどこかで」と言うと、「いや。もう二度と会えないでしょう」と断言なさったので「さすがあ」などと思ったりしたものだ。