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Apple和解記念! ポール・マッカートニー発掘インタビュー「お前ぶっちゃけ、日本人のこと嫌いだろ?」

前回からちょっと空いてしまったが、以前予告した通りポール・マッカートニーのインタビューを取り上げる。今日の画像は Wikimedia Commons より。

以前からタイミングを計っていたのだが、昨年末アップルとアップル・コンピュータの和解が近いという噂をどこかで読み、そのときに公開しようと思っていたのだ。そしてご存知の通りそれが実現したわけだが、まさかそれまでにアップル・コンピュータの名前からコンピュータが抜けているとは思わなかったな。

今回取り上げるのはロッキング・オン1990年3月号に掲載されたインタビューである。彼のファンならピンと来るだろうが、ソロとしては初めて、ビートルズ時代からおよそ四半世紀して実現した彼の来日公演の直前に行われたものである。

ええっ、何でそれまで来日公演がなかったの? と思う方もいるかもしれないが、そのあたりについても触れてます。

インタビュアーは児島由紀子だが、当時の新作である『Flowers in the Dirt』asin:B000002UUM)について、優れた作品だったけどセールスがイマイチだったのはなぜだと思うか? とのっけから飛ばしている。そして来日公演の話題になると、日本人なら誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくい例の話に突っ込んでくれている。ホントこの人、恐いものなしだな。

●で、ついにこの3月日本へいらっしゃるわけですが日本のファンって多分世界中で最も忠実なんじゃないかと私は思うんですよ。未だに日本ではどこへ行っても毎日有線放送でビートルズが流れてますし……。

「うん、そうだねホントに日本人って忠実な人々だと思うよ」

●ところが中には「その我々に対して少々冷たいんじゃないか?」と文句を言う人も居る訳ですよ。

「へええ。そう言えばビートルズが初めて日本へ行った時も『武道館なんかで演るべきじゃない』とか文句を言う奴が居たよなあ。日本人って文句言うのが好きなんだろうか?」

ビートルズ来日のウラ舞台に詳しいが、ビートルズが武道館で来日公演を行うことに関して、当時の読売新聞社主で日本武道館館長の正力松太郎氏は「ペートルなんとかというのは一体何者だ? そんな連中に武道館を使わせてたまるか」、政治評論家の細川隆元小汀利得は「乞食芸人に武道館を使わせてたまるか」、「ビートルズが乞食芸人なのは、騒いでいる気違い少女どもを見れば一目瞭然」といった発言をしている。

隔世の感がある、と書けばそれまでなのだが、特に後者はテレビ番組「時事放談」での発言というのがすごいよな。

●ちょちょっと待って下さい。まだ全部言い終わってないんですよ。

「(笑)ああそう」

●例えば”フローズン・ジャップ”などという曲を書いてみたりですね。

「うんうんでもそれはさ(とまた割り込もうとする)」

●それにあるビデオ・クリップでは日本人をからかってみたり。

「あれは僕じゃないよ。あのビデオを撮った監督のアイデアだったんだ。ロジャー・ラングって奴なんだけどさ、『僕、面白いアイデアがあるんだ』って言うから『へええどんな?』って聞いたら『ある熱心な収集家が君に関するものをすべて集めたがってあげくの果ては君の愛用のベースを盗もうとする話だ』って答えるんだ。だから『よし、じゃそれで行こう』って事になって当日撮影所に現われたら何と目の前に日本人の俳優がいるんだよ」

●(笑)。

「そこで僕に何ができる? もう来ちゃってるんだから追い返す訳にもいかないしさ。だからあの場合は別に日本人じゃなくたって、どこの国民を使っても結局は一種皮肉っぽいニュアンスがつきまとう仕組になってたんだよね。(中略)だから最後のシーンに日本人の警官を登場させてくれって頼んだんだ。そうすれば日本人は皆犯罪者だというニュアンスを打ち消せるからね。あの部分は僕の特別なリクエストだったんだよ。でもさ監督の奴だって別に悪気はなかったんだ。ただ世界で一番熱心な収集家は日本人だからっていう理由であのシーンに日本人を使っただけなんだよね。(中略)僕の言葉を信用してくれよ」

●はいはい解りました。

これは『Flowers in the Dirt』からのファーストシングル "My Brave Face" のビデオのことである。これは実際に見て判断していただくのが一番であろう。ビートルズ時代の映像の他に、このアルバムでタッグを組んだエルビス・コステロもちょっとだけ映っている。

「それに"フローズン・ジャップ"っていうタイトルだけどさ。まあ時として"ジャップ"って言葉そのものが侮辱的な響きを持ち得るのは認める。でも例えば、"ニガー"なんかよりはずっと悪意のない言い方なんだよね」

●ええっ? そうですか。

「うん悪意はない。でも日本人はこの言葉に対して神経質になり易いのかも知れないな。でも本当に英国人が気楽にこの呼び方をする場合って他意のない一種の親愛をこめた別称とでも言うのかな? そういうニュアンスなんだよね。日本人にとっては無神経な呼び方に聞こえるのかも知れないけど。僕は誰に対してもそういうニック・ネームっぽい呼び方をしてしてしまう性分で、多分こういう馴れ馴れしい態度は改めるべきなのかもね」

●(笑)。

これは1980年のアルバム『McCartney II』asin:B000005RT8)に収録された "Frozen Jap" のことなのだが、やはりこれが言い訳に思えてしまうのは、後で触れられる例の一件があるからなのだが、本当に彼が言う通りなら「天才の天然」としか言いようがない。

「でも信じてくれよ。本当に悪意はないんだってば。僕にとってはすごく自然な暖かみのある愛情表現なんだ。そもそもこの曲に日本的な響きのあるタイトルをつける気になったのはさ、この曲そのものが一種日本的、東洋的な響きを持ってたからなんだ。何だか寒い景色、雪が降ってる光景なんかを連想してね。富士山に雪が降ってる感じとでも言うのかな? だからその寒い景色と日本的な響きってのを組み合わせて"フローズン・ジャップ(引用者注:振り仮名で「寒い 日本」)"って題を付けたって訳。侮辱的なニュアンスなんてこれっぽっちも頭に浮かばなかったんだよ」

●なるほど、そうだったんですか。

「だからそのまま日本に送ったらさ『ちょちょっと持って下さい(原文ママ)。これはマズイですよ』って返事が来て。やっとその時『ああなるほど、こりゃそうかもなあ』って気付いたんだ。それまではまさかそんな風に受け取られるなんて夢にも思わなかったもんね。(中略)でもホントそんな訳で悪意は全然なかったんだよ。言わば英国人特有のタチの悪い冗談でさ。第一こんな子供っぽい冗談が本物の侮辱になり得る筈がないじゃないか。この僕に本当に相手を侮辱しようという気があったなら、もっともっとヒドイ巧妙な言い方でもってトドメを刺す方法があるよ。僕はいざとなったら他人が想像もできないような辛辣な言葉だって吐けるんだ」

いや、アナタがかなり辛辣なのは存じております(笑)

●解りました解りました。もうそれ以上言わないでください。じゃ本題に戻りますが、これは10年前、大麻事件で逮捕された事を未だに根に持ってやった事ではなかった訳ですね。

「さっきも言ったように僕が本気で異議を申し立てようと思ったらこんな幼稚な方法は選ばないって。こっちの新聞に投書したり日本の新聞に手記を書いたりもっともっと効果的な方法はあるんだから。でも僕が日本で逮捕された時の状況ってのはすごく公平なあり方だったんだからね。僕はその国の地においてその国の法を犯したんだからさ。当然だよ。明らかに僕がバカな事をしてしまった訳なんだから。あの事について日本人に対する反感はカケラもない。実はあの当時帰国した際、『ずい分とヒドイ取り扱いを受けたんだろう?』って聞かれたんだよね。特に少し年を食った人々の中には未だに戦時中の反感が残ってる人も多い訳だからさ。でも実のところ入獄中の僕は勿体ないくらい紳士的な扱いを受けた訳だから『いやそんな事はなかった。すごく親切にしてくれたぜ』って答えたんだ。だって本当だものね。今だから言うけど居る間に看守達とも結構親しい友達になっちゃってさ、出獄する際は涙まじりのお別れだったよ(以下略)」

もしかして、若いロックファンだとポール・マッカートニーが成田において大麻取締法違反で現行犯逮捕されたことがあるのも知らないのかもしれない。その彼が1990年に来日公演が行えたことについては Wikipedia の彼のページあたりを参照くだされ。でも、看守達とも結構親しい友達になっちゃったってホントかね。

このときのツアーはライブ盤『Tripping the Live Fantastic』asin:B000002UWY)としてまとめられているが、彼がようやくビートルズの呪縛から解けたというか、過去を肯定できるようになったことが分かる怒涛の内容である。

どうもこの人はこのツアーをやるまでビートルズに向かい合うのを避けていたためか、その偉大さを忘れていたようで、リハーサルで "Golden Slumbers"、"Carry That Weight"、"The End" のメドレーをやったらスタッフが泣き出したのを見てびっくりしてセットに加えたという話を読んだときは、こっちがびっくりした。アナタ、目の前であのメドレーをやられたらそりゃ泣くよ!

このツアーの肯定感があってこその90年代のアンソロジープロジェクトだったと当方は思うが、それが終わっても再発だなんだと話題になり、遂には新譜『Love』asin:B000JK8OYU)が出るに至り、21世紀もビートルズは続くのだなと思ったりした(ジェフ・エメリックの『ザ・ビートルズサウンド 最後の真実』(asin:4861912210)はとても良い本らしいですね)。おそらく2007年は、ビートルズの楽曲がオンライン音楽ストアで購入できるようになった年として記憶されるだろう。

しかしその一方でポール自身は、かつて自ら歌った64歳になる直前に離婚するという悲しい展開を迎えたのは皮肉としか言いようがない。「その彼を励ます意味も込めて、彼の子供たちが集まってこの曲を録音し、誕生祝としてプレゼントしたという」という Wikipedia の記述にほろりときたよ。

ポール・マッカートニーが偉大な音楽家というのはワタシが書かなくても分かりきった話なのだが、率直に言って自分が彼のファンかというとよく分からない。とはいえ、偉大な仕事を成した男が晩年になって女に金をむしり取られるのに関しては同情を禁じえない。

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