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我々はフリーソフトウェアの定義を再考すべきなのだろうか?

GNOMEDebian 界隈、あと Linux カーネルなど幅広いフリーソフトウェアの開発者として知られ、フリーソフトウェア財団(FSF)が選ぶ Free Software Award の2014年の受賞者でもある Matthew Garrett が、我々はフリーソフトウェアの定義を再考すべきなのか、と問うている。

ライセンスこそがフリーソフトウェアの目標達成に欠かせないツールであり、特にコピーレフトのライセンスは意図的にその利用者が必然的にフリーソフトウェア四つの基本的な自由を実行する立場になるよう著作権というものを利用してきたとギャレットは話を始める。

そして最近、既存のライセンスに対する2つの懸念とそれを救済するために新たな種類のライセンスを模索する動きがあって、この2つとも現状のフリーソフトウェアの定義とは互換性がないのだが、フリーソフトウェアのコミュニティが真剣に検討すべき問題がそこにあるという。

まず一つ目は、SaaS を基盤とするビジネスモデルを制限しようというライセンスである。「Saas の抜け道(SaaS loophole)」というのは、それこそ GNU GPLv3 を策定していた10年以上前からの懸案であるが、企業に SaaS としてサービスを提供されてしまうと、そのソフトウェアの原作者にお金を支払うインセンティブはほとんどない。それがいろんなプロジェクトによる Commons Clause など既存のライセンスに制約を加え、商用サービス提供者に課金を強いたりするライセンス手法の採用につながっている。

実際にはこの手のライセンスを推進しているのは、フリーソフトウェアから利益を得ながらボランティア開発者にただ乗りしてお返しをしないベンチャーキャピタルがバックについた企業なので、ギャレットはこの動きにほとんど共感しないが、それでもタダ働きのエンジニアに依存しすぎているという重要な問題は現実にあり、なんらかのバランスを取る動きが出るのは当然と考えている。

もう一つは、フリーソフトウェアの倫理的な面への配慮である。コピーレフトはその利用者にも自由を強いるが、その一方でそのソフトウェアの用途は何ら制約しない。政府が大規模な監視や拘束や虐殺にさえテクノロジーをますます活用している現実に、作者が自分のソフトウェアが人間の自由を妨げるのでなく、自由を可能にする方向に使われたいと願い、ライセンスを通してこの問題を解決しようと考えるのは不思議ではない。

例えば、JSON のライセンスには「このソフトウェアは悪(Evil)でなく善(Good)のために使われるべきである」という条項が含まれる。しかし、その「Good」と「Evil」ってどうやって区別できるのか? これはもう現状のフリーソフトウェアの定義を超える問題である。

ギャレットは、自分がこの問題の解決策を持ち合わせていないことを認め、これはフリーソフトウェアコミュニティでしっかり議論すべき問題だと訴えている。そうしないとフリーソフトウェアが分断してしまう危険がある、と。ギャレットはフリーソフトウェア財団がその議論を主導すべきと考えているが、ジェフリー・エプスタイン問題の余波で見事に炎上してリチャード・ストールマンが FSF の代表を辞任した今、果たしてそれが可能だろうか。

フリーソフトウェアがテロリストにも過激派にも体制側の圧制にも利用されうるという懸念は、必ずしも新しい問題ではないのだが、その成果が目に見えてくると危機感も高まる。先日の政治的問題のため Ruby Gems と GitHub から Chef 関連の諸々が消えた件もその一つのあらわれだろうし、Coraline Ada Ehmke によるフリーソフトウェアオープンソース)プロジェクトのための倫理的なライセンスを掲げる The Hippocratic License のような試みもでてきた。

もっとも後者については、この界隈の重鎮であるブルース・ペレンズがすかさず「残念だけど、そのライセンスはうまく機能しませんよ」と牽制している。ワタシ自身も、古いと言われそうだが、ペレンズに賛成である。

個人的に危惧するのは、リチャード・ストールマンFSFGNU のトップを追われ、原理的グリップが利かなくなったところでポリティカルコレクトネスがここでも暴走し、善意で舗装された地獄への道を歩むことだ。それでも、ギャレットの「フリーソフトウェアが社会とのつながりを維持するには、今起こっている社会問題とフリーソフトウェアがいかに関わり合うか説明を続ける必要がある」というのは正しいだろう。

ネタ元は Slashdot

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