「史上最高のラブソング」とは大きく出たものだと言いたくなるが、ジョニ・ミッチェルの名曲ならワタシも文句は言わない。この曲は、ワタシが愛するジョニ・ミッチェルの名盤『Blue』に収録されている。
もうすぐリリースから半世紀が経つこの名盤は、もちろんワタシも愛する洋楽アルバム100選に入れているし、昨年改訂版が出たローリングストーンの The 500 Greatest Albums of All Time で3位にランクインしている。
- アーティスト:Mitchell, Joni
- 発売日: 1994/10/26
- メディア: CD
ジョニ・ミッチェルという人は、作詞家、作曲家、シンガー、ギタリストとどの面でも傑出した存在なので、その人が書いた名曲を「史上最高のラブソング」と言われても驚きはしないが、でもラブソングって結局は聴き手との関係性、もっと書けばその人の恋愛との兼ね合いで価値が決まるもので、この記事でもそれを素直に書いている。
つまり、年齢を重ねるにつれ、人は自分を形作った場所や本や音楽を再訪することになる。それは単なるノスタルジーではなく、長らく触れてなかった記憶の棚を調べなおすプロセスなのだ。かつて愛した作品は、今となっては誰か思い出せない人の名前が書きこみされた卒業アルバムみたいに感じる場合もあるが、当時とは違った新しい形で作品を理解し、感謝していることに気づくこともある。
「A Case of You」もこれを書いた Julie Wittes Schlack さんにとってそういう作品ということですね。でも、この曲に何ら個人的な思い出がないワタシもこの曲が優れたラブソングだと思う。
いきなり愛が失われたことから歌詞が始まるところが彼女らしいが、ジョニ・ミッチェルのラブソングは、孤独に裏打ちされた独特のクールさがある。タイトルは「あなたの場合」という意味ではなく、恋人の血をワインになぞらえて「あなたを1ケースくらい飲んじゃうよ」ということなのだけど、その表現のちょっとギョッとさせるところ、そして、歌い手とその恋人(グラハム・ナッシュがモデルと言われる)に続いて登場する第三のキャラクターの女性(おそらくは恋人の母親か姉)の酷薄な言葉などにもそれを感じる。
この曲はおよそ300ものカバーバージョンが存在する。数が多ければよいというわけではないけれど、やはりそれだけこの曲に惹かれる人が多いという目安でもある。この記事でもいろんなバージョンが紹介されているが、個人的に特に好きなのは、以下の二つ。
ジェイムス・ブレイクの歌声は、愛の終わりを強く感じさせる。
プリンスはジョニ・ミッチェルのトリビュート盤でもカバーしているが、ワタシが好きなのはそのいささかあっさりしたバージョンよりも、公式音源ではないがブルージーなギターが印象的なライブバージョンが好き。
ネタ元は Boing Boing。
そうそう、ジョニ・ミッチェルといえば、アルバム・ガイド本が今年になって出ているが、「ロッキング・オン」の最新号も彼女が表紙で総力特集とのことで驚いた。少なくともワタシが読者だった時代、彼女が表紙なんて考えられなかったから。