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ジョノ・ベーコン著、高須正和訳『遠くへ行きたければ、みんなで行け ~「ビジネス」「ブランド」「チーム」を変革するコミュニティの原則』を恵贈いただいた

高須正和さんから『遠くへ行きたければ、みんなで行け ~「ビジネス」「ブランド」「チーム」を変革するコミュニティの原則』を恵贈いただいた。

ワタシは紙の本を選択したが、電子書籍版もある。

この本の情報を知ったとき、正直「やられた!」と思った。なんでこの本の原書を本ブログで取り上げてなかったのだ、と後悔したのである。

本書の著者ジョノ・ベーコンの本は、『アート・オブ・コミュニティ――「貢献したい気持ち」を繋げて成果を導くには』を読んで感銘を受けていたし、その彼が Canonical を離れ XPRIZE 財団に移ったあたりはフォローしていたが、その後 GitHub を経て、コミュニティ戦略のコンサルタントとして独立したこと、そして『People Powered』を出していたのは見逃していた。

訳者の高須正和さんは、『世界ハッカースペースガイド』『プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション』という(共)著書、『ハードウェアハッカー 〜新しいモノをつくる破壊と創造の冒険』という訳書の仕事があるが、やはり近年はニコ技深圳コミュニティに代表される、深センの最新動向を伝える仕事のイメージが強い。

本書は『アート・オブ・コミュニティ――「貢献したい気持ち」を繋げて成果を導くには』と同じくコミュニティ運営についての本なのだけど、CanonicalGitHub の名前からも分かる通り、ジョノ・ベーコンはオープンソースコミュニティと関わる仕事で名を挙げた人であり、翻訳者による序文を読むと、コミュニティ運営も仕事の柱であり、中国オープンソースアライアンス開源社に参加することでジョノ・ベーコンと出会い、本書の翻訳につながったことが分かる。

少し奇妙にも思える本書の邦題は、第1章のエピグラフに掲げられたアフリカのことわざに由来するんですね。

「コミュニティメンバーと関わるうえでの10則」など、本書にはいくつか有用なリストが含まれるが、例えば、本書で挙げられるコミュニティに必要な4つの材料を見ると、やはり著者とオープンソースコミュニティとの関わりがイメージできるように思う。

  • コラボレーションのための明確でオープンなアクセスの提供
  • シンプルで明確なピアレビューのプロセス
  • 共同作業のワークフローは変更可能
  • 機会の平等と公平な競争の場の提供

 オープン性は「正真性」を生む。これはこの本で一貫して追求しているものだ。コミュニティとそのメンバーは正真性を必要としているだけでなく、それを尊重している。(p.195)

本書は『アート・オブ・コミュニティ』と同じく前向きで活気に満ちた本であるが、コミュニティのメンバーをセールスチームの下請けや部下みたいに扱ってはいけない、多くの会社や組織が身勝手な10代の若者のように自己中心的になるまちがいを犯してるぞ、といった注意点はしっかりおさえられている。

また本書では、オンボーディングの重要さが強調されており、コミュニティ導入路モデルの図も何度も登場するが、コミュニティはそれがあるだけで意味がある、コミュニティに参加するだけで素晴らしい、みたいなただふわふわとした話ではなく、当たり前だが KPI も明確に測定可能な数値目標も必要だし、目標の達成ははっきりとイエス/ノーで答えられるべき、「まあまあです」なんて答えはありえない、とキッパリ書いているのもメリハリがついている。

 だが熱意はリスクでもある。現実のリスクや制約に関わらず、なんでも可能だと訴える、多くの自己啓発本の地獄に落ちてしまってはならない。野心は大胆で勇敢であっても、現実に根差したものであるべきだ。現実的な成功とはなにかを理解すること。(p.168)

本書に示される「コミュニティ参加のフレームワーク」を見ると、読者にもう少し身近な、できれば日本の事例を知りたいと思うのが人情だが、それに応えるのが関治之氏の解説「Code for Japanはどのようにコミュニティを運営しているのか」である。

これが良いのだ。日本語版にオリジナルの解説が追加されること自体は珍しくはないが、多くの場合、本が扱う分野に詳しいその筋の著名人が、本の内容や著者に少しだけで触れただけで、あとはその著名人が気持ちよさそうに自説を書き飛ばす「いつもの話」を読まされることも少なくない。

関治之氏の解説はそうでなく、「コミュニティ参加のフレームワーク」に Code for Japan のコミュニティを当てはめるなど、本書の内容や語り口をしっかり受け継いだものになっている。また本書はコミュニティ運営について網羅的に語られているが、唯一コミュニティメンバーの行動規範(Code of Conduct)の話が直接的には出てこないなと思っていたが、この解説でそれにちゃんと触れられており、良い補完になっている。

そういうわけで、本書の出版記念ということで、id:pho さんと Twitter スペースで高須さんと今週土曜日に話をします! 自分で書くとアホみたいだが、性格が暗く口下手なワタシのこういうのに参加するのは貴重な機会です。ワタシはもはや終わった人間なので、本書と高須さんの活動とのつながり、つまりはコミュニティ運営や中国オープンソース界隈の話が聞ければと思います。ただワタシ自身、まともに Twitter スペースで発言者になること自体、今回が初めてなので、粗相があったらごめんなさい。

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