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ブラック・スワン

いやー、すごい映画だった。期待値を上げて観たがそれを裏切らない出来だった。以下、ネタバレに類する記述がないよう気をつけて書く。

多くの人が思うことだろうが、本作は前作『レスラー』と対をなす映画である。つまり、『レスラー』におけるミッキー・ロークと衰えたかつてのスターレスラーを重ね合わせずにいられないように、本作もナタリー・ポートマンと生真面目だが官能性を抑圧した主人公のパーソナリティを重ねてみてしまう。

主人公を背中からアップで追いかけるカメラワークにも前作と同じ効果を狙ったところが見られるが、本作ははっきりサイコホラーの文体で作られていて、そこが前作にあった人情の機微とははっきり違う方向を向いている。本作のほうが監督のダーレン・アロノフスキーの本来の芸風に近いのではないか(この二作しか彼の映画を観てないので想像)。あと本作については、今敏の『パーフェクトブルー』との類似性についても言われているが、そちらは未見である。

本作は冒頭からバレエが非常にテクニカルにしかも観客をひきこむ不穏さを湛えて撮られていて、それが本作のトーンを決定している。稽古の場面を含め、何よりバレエがしっかり撮られているが、ああやってカメラが動くと稽古場にある鏡への写り込みなどが問題になるわけで、そのあたり苦労しなかったのかなと思っていたら、後半その鏡を使ったホラー演出もあってさすがと思った。

役者ではナタリー・ポートマンが見事で、アカデミー主演女優賞に相応しい演技を見せている。冒頭に書いたことを覆すようだが、『レスラー』におけるミッキー・ロークと本作における彼女を同じ観点で評価すべきではない気もする。彼女のほうが越えるべきハードルは高かったはずで、それは賞賛されるべきだ。

役柄とパーソナリティを重ね合わせるといえば、引退させられるプリマ役のウィノナ・ライダーも相当なものだった。あと娘に対して支配的でその人生に介入しようとする母親役のバーバラ・ハーシーも怖かった。『ハンナとその姉妹』など彼女の出てる映画はいくつも観ているが、いずれも80年代、つまり20年以上前のもので、年齢を考えれば不思議ではないが、こんなになっちゃって感が半端なかった(彼女は顔がなんというかミッキー・ローク的になっていて、それはつまり彼女も……?)。

ナタリー・ポートマンがプリマを熱演してオスカーとった『白鳥の湖』とだけ聞いて本作を観ると、そのサイコホラーぶりにたじろぐ人も多いだろう(ジャンプカットが効果的に使われてる映画を久しぶりに観た気がした)。そうした意味で本作は結構スレスレな映画なのだが、本作で多用される背中や爪の間からにじむ血の演出が、もちろん怖いのだけど、その身体性がスレスレなところで主人公を観客とつないでいる感じがした。それがあるから最後の黒鳥を踊る飛躍した演出が引き立つのではないか。

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