以下、公開中の作品の結末まで触れているので、ネタバレを気にする人はご注意ください。
エドガー・ライトの新作というだけでも観に行く理由になるが、主演が『ジョジョ・ラビット』のトーマサイン・マッケンジーと『クイーンズ・ギャンビット』のアニャ・テイラー=ジョイということでとても楽しみで、公開初日に観に行った。
やはり、この主役二人がとても素敵だったなぁ。彼女たちの対比が絶妙というか。トーマサイン・マッケンジーは後半ほぼタヌキメイク状態になっちゃって少し損しているが美しいし、アニャ・テイラー=ジョイという人のユニークな容姿は本作でも力を発揮している。ワタシが最初に観たこの人の出演作は『スプリット』のはずで、その時点でとてもうまい役者だったと思い当たるが、本作でも強い目力で60年代の歌姫を目指す役柄をものにしている。
エドガー・ライトの前作『ベイビー・ドライバー』は車×音楽映画としては文句なしだったが、主人公の恋愛に関する筋立てが好みでないのが個人的にマイナスだった。彼の作品ではやはり、サイモン・ペグ×ニック・フロストと組んだ『SPACED 〜俺たちルームシェアリング〜』並びに「スリー・フレーバー・コルネット3部作」が好きで、コメディの作り手というイメージがある。
60年代のスウィンギング・ロンドンの光と闇が主人公の現実に侵食する本作は、サイコホラーに分類されるのだろうが、ライトの映画オタクとしての引き出しの多さがいかんなく発揮されていて、目覚ましを使った恐怖描写など楽しんで演出したんだろうなと想像する。本作はいささかとってつけたようなハッピーエンドで終わるが、これも彼の考える「ホラー映画的ハッピーエンド」の型なのかもしれない。
また本作でも音楽の使い方がうまくて、というか60年代ポップ鳴りっぱなしなのだけど(アニャ・テイラー=ジョイによるペトラ・クラーク「恋のダウンタウン」のアカペラも素晴らしい!)、そういえばジョージ・ハリスンがカバーして全米1位のヒットとなった「セット・オン・ユー」の原曲を映画で聴けるとは思わなかったな。クライマックスで使われるのがダスティ・スプリングフィールドというのがポイントなんでしょうな。
またそれとも関連する意味で、夢を抱く女性を食い物にする男たちが本作のホラーの源泉となるのも時宜を得ており、無駄なカットが一切なく、2時間弱にまとめているのも良い。クライムアクションの『ベイビー・ドライバー』で商業的に大成功した後に、映像作家として幅を見せつけるサイコホラーの本作をものにしたことで、エドガー・ライトは当代を代表する名監督のリストに仲間入りしたのではないか。