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マトリックス レザレクションズ

2022年最初の更新を、2021年の最後に劇場で鑑賞した映画の感想から始めさせてもらう。

本作は当然 IMAX の大画面で観るべきだろうと考え、実際そうしたのだが、考えてみればワタシはマトリックス三部作をいずれも映画館では観ておらず、DVD をレンタルして、自室のちっこいテレビで観ていただけなのに今更思い当たった。

この三部作について、ワタシは以前以下のように書いている。

つまり、第一作目がすこぶる面白かったので続編も期待してみたが、二作目は確かに前作よりもお金がかかっておりアクションも派手なのにうっかり居眠りしそうになるくらい退屈で、三作目にいたっては、自分は何の話を観ているんだろうと自問してしまうという。

パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド - YAMDAS現更新履歴

ただ昨年、ヘンリー・ジェンキンズ『コンヴァージェンス・カルチャー』を読み、自分の三部作への向き合い方は明らかに旧弊なもので、「トランスメディアストーリーテリングとしての『マトリックス』現象」にまったく理解がなかったと反省するところもあった。

18年ぶりのシリーズ新作にして「駄作」という声も聞こえる中、これはワタシの世代の人間としてちゃんと死に水を取るべき(取るなよ)というマインドセットで三部作を Netflix で観直して復習し、新作に対峙した。

あの三部作の後にどんな『マトリックス』がありうるのかよ、としか鑑賞前は思えなかったのだが、安易に旧作をなかったことにするリブートではなく、こういうやり方があるのかと感心した。旧三部作は映像も多く引用されるが、本作の「マトリックス」ではその三部作はゲームということになっており(「トランスメディアストーリーテリング」という性質を考えると、さほど違和感がない)、その中で自分達抜きでも新作を作っちゃうよという「親会社のワーナーブラザーズ」と、三部作を都合よく解釈して自分達の願望に落とし込んだネット民への私怨と意趣返し、(エンドロール後も念押しされる)悪意に満ちたパロディ感覚が準拠枠となっている。

そうしたメタ性、垣間見られる自己否定に対して「駄作」「ふざけんな」という声があるのは理解できるが、上記の通り、自分の中で三部作の後半に対する評価が厳しすぎたという思いがあり、また直前に久方ぶりに Netflix で観直した『リローデッド』と『レボリューションズ』が、最初観た時よりもはっきりついていける感覚があり、かなり気分良く本作に向き合えたのが本作の印象を良くしている。

例によって事前情報をできるだけ入れずに観たのだが、旧三部作のあの人がここで出てくるのかという予想外さもあった。本作ではモーフィアスがローレンス・フィッシュバーンでないのを残念がる声があるが、彼とキアヌの同窓会は(あの名台詞の再現とともに)『ジョン・ウィック:パラベラム』で済んでおり、本作はこれはこれでフレッシュでいいんじゃないのかな。

あの鮮烈だった『マトリックス』第一作でワタシが唯一「へ?」となったのが、一度スミスに撃ち殺されたネオがトリニティの愛の力で復活というプロットなのだけど、本作もそうした「愛は勝つ」なプロットは踏襲されており、結局こうした映画はカミカゼ的特攻が不可欠なんだよねという点も含め、『マトリックス』シリーズにおける古典的なストーリーテリングの強さについて考えたりもした。

本作を観て、ワタシはなぜか、かつて Sad Keanu ミームについてキアヌ・リーヴス本人にインタビューした人の言葉を連想した。

真面目な話、これは人々がいつもあなたの胸のうちを何とかして知りたいと思っていることが、役者であるあなたの最大のアピールの一つであるからこそ起きていることだと思うんですよ。あなたが何を考えているのか、なぜあなたは悲しげなのか……そう思う人たちが何千もいるという。

キアヌ・リーブスに'Sad Keanu'ミームを直撃したインタビュー - YAMDAS現更新履歴

「あなたが何を考えているのか、なぜあなたは悲しげなのか」と思わせるものが、ルックスがジョン・ウィックにしか見えない本作においてもキアヌ・リーヴスにはあり、そうした彼の魅力(と言ってよいでしょう)が、今にして『マトリックス』をやる一種のよりどころになっている。第一作において覚醒した後の無双に近いネオからすれば、本作のトーマス・アンダーソン君は、あまりに自信なさげで、年齢的に不思議でない弱々しさを隠そうとしない。彼の力も本作では主に防御にしか使われない。そして、その力は「彼女」に引き継がれる(ことの意図は書くまでもない)。

本作のメタ性はともかく、その悪意のこもったユーモアは多分にスベっており、何よりアクションにかつての斬新さは微塵もない。だから本作は傑作でもなんでもないのだけど、キアヌにしろキャリー・アン=モスにしろ、安易に若作りさせることなく、また機械側を今風に AI とかに寄せることなく SF 作品に踏みとどまった『マトリックス』の新作をワタシは肯定する。

……とここまで書いた後で、URL だけメモしておいた本作の感想や考察の文章を一通り読んだのだが、辰巳JUNKさんの「『マトリックス レザレクションズ』 "her"カウンターカルチャー」がもっとも納得するところが多かった。

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