昨年、「映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』がすごく面白そうな件とベン・メズリックの異様な仕事の早さに驚いた話」で取り上げていたが、都合がついたので観に行った。
事前には、後味の悪くない『マネー・ショート 華麗なる大逆転』庶民版という感じをイメージしていた。その線、つまりはここ数年トレンドだった愚かな富裕層を笑い、庶民の願望を満たす「イート・ザ・リッチ」ものの映画なのは間違いない(本作が題材とするゲームストップ株の騒動についての Netflix 制作のドキュメンタリーシリーズもまさにこの言葉をタイトルにしている)。
ただ、本作に描かれている個人投資家によるウォール街のヘッジファンドへの反抗を可能にしたロビンフッドが善玉というわけでもないし、本作にもゲームストップの店員が登場するが、ゲームストップ自体についてもやはり、救済の対象としてふさわしい同情の対象には描かれない。
個人的にはもう少しなぜゲームストップに個人投資家が感情移入したのか描写があってもよかった気がするし、もっと一方的に善玉悪玉を描いて盛り上げることも可能だったろうが、それをしなかったのは節度なのか、あるいは2020年から2021年の実際の事件を2023年というあまりに早くに映画にしてしまったことによる恐れがあったのか。
それはともかく、小金でも金儲けのチャンスを掴みたいというアメリカ人らしい投資欲(本作は、意図せず日本における新 NISA などへの宣伝の役割も果たしている……ということはないかな)が、意志を貫くには株を売るわけにはいかないという個人投資家たちが苦しい状況に追いこまれたところで信念の問題に変わっていくところが観客を引き込むポイントになっている。
そして、ヘッジファンドの大立者たち、ロビンフッドの CEO、そして「ローリング・キティ」こと本作の主人公キースが下院の公聴会に呼ばれる本作のクライマックスは、ある意味アメリカ映画らしい法廷ものになっているし、ここぞとばかりに実際の映像を使っているところはうまいと思ったし、結果的にコロナ禍のアメリカを最低限(それすら実は少ない)描いた映画になっている。
ピート・デイヴィッドソン演じる主人公の弟がいい味出していた。
あとワタシは実はホワイト・ストライプスをそこまで好きではないのだが、エンドロールでかかる「セヴン・ネイション・アーミー」を久しぶりに聴いて盛り上がった。
気になって Netflix のドキュメンタリーを観始めたが、「ダイヤの手」、「踏み上げ」といった本作に出てくる用語の説明がやはりあった。