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ハドソン川の奇跡

還暦を過ぎて撮る映画がよくなっている異様な存在であるクリント・イーストウッドの作品はできるだけ映画館で見届けようと思っている。

ワタシも2009年のUSエアウェイズ1549便不時着水事故については、サレンバーガー機長の果敢な操縦により乗客乗員に一人の死亡者も出さなかった「ハドソン川の奇跡」として記憶に残っているが、機長が国家運輸安全委員会(NTSB)の厳しい追及を受けていた話は恥ずかしながら知らなかった。

考えてみれば、機長にしてみれば、ハドソン川に着水するという判断は不可避なものであり、あの事件が「ハドソン川の奇跡」であっては逆に困るわけだ。本当にあのときの自分の判断は正しかったのか? 40年以上のキャリアを誇る機長の存在意義は、意図せずあの日のフライト208秒に凝縮されてしまう。

それを踏まえた上で本作の「Sully」という、機長の名前を愛称だけのそっけもない原題があるわけで、邦題はどうかと思うのだが、でも『サリー』では日本人の客には何の映画か分からんわけで、本作に関しては邦題を難じても意味はなかろう。

トム・ハンクス演じるサレンバーガー機長は、業務に忠実な堂々とした人物でありながら、同時にどこかステージフライトな状態を連想させる困惑、不安感を表情に湛えており、それが本作の基調をなしている。

本作は紛れもないアメリカ映画であり、だからこそ現在のアメリカの不安感も反映している。言うまでもなく9.11の後遺症もある。本作では、事件を再現するのにその関係者を何人も本人役で出演しており、エンドロールに Himself/Herself の表記が目立ったが、ちょっと『ユナイテッド93』を連想してしまった(これは同じ監督が撮り、やはりハンクスが主演した『キャプテン・フィリップス』からの連想もあったかもしれない)。

そして、40年以上のキャリアを持つ機長は安全コンサルタントとしての副業に手を出さざるをえず(フライトの前、副機長から安全コンサルタントの副業の件でからかわれ、「ほらふき」とまで言われてしまう)、早く機長職に戻れないと投資物件や自宅を差し押さえられるかもしれないという経済的厳しさのエピソードも現在的である。

正直言うと、本作が良い映画かどうかワタシにはよく分からない。感動の物語を期待してみたらむしろ肩透かしだろう。しかし、ワタシがクリント・イーストウッドの映画に求める異物感は十分に堪能させてもらった。

本作は、前作に続き、近年の実在のアメリカ人に材をとっており、本作でもアーロン・エッカート演じる副機長の最後の台詞までこれぞアメリカ映画という作品になっており、またアメリカ的民主主義の一つの形である法廷劇でもあるのだが、同時にそこからはみ出てしまういびつさが確かにある。

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