ジョナサン・デミの『ストップ・メイキング・センス』については、かつて史上最高の音楽映画に選んだのをはじめ、このブログでもこれまで何度も讃えてきた。
ワタシは今50歳だが、この映画をリアルタイムには体験していない。ワタシの故郷の田舎では公開されなかったはずだし、トーキング・ヘッズ自体も、当時ヒット曲の PV をテレビで体験はしていたが、彼らのアルバムを初めてちゃんと聴いたのは、ラストアルバムとなった『Naked』だったりする。
とはいえ、その史上最高の音楽映画が、初公開から40年の時を経て4Kレストア版として再上映されるとなれば、これは体験するしかないわけである。もちろん IMAX シアターでだ。
『ストップ・メイキング・センス』はディスクを所有していないにも関わらず10回くらい通しで観ており、今更大画面で観たからといって特に何も感じるところがなかったらどうしようとも正直思っていた。
パブロ・フェロのタイトルバック、何もないステージにデヴィッド・バーンだけ現れてラジカセをリズムボックスにして*1アコギ一本で歌われる "Psycho Killer"、曲とともにステージ上のメンバーが増えていく演出、ライブが進行する背後で黒子さんがステージを設営するという中学生が考えそうなアイデアの具現化、その黒子さんのライトで実に美しくステージ背後に影が映し出される照明演出、それが頂点を極める "Girlfriend Is Better" でのデヴィッド・バーンのビッグスーツ――すべて知っていたものである。細部まで記憶していたつもりだった。それでも、こうやって体験できた感動が確かにあった。
バーニー・ウォーレル、スティーヴ・スケール、アレックス・ウィアーらが加わり、ライブバンドとして円熟期にあった*2トーキング・ヘッズの素晴らしい演奏を前提としながら*3、どの曲もライブのハイライトと言ってよいレベルのライティングやアクトの演出(主にバーンの神経症的なダンス、というかもはや演劇的な振り付けだが、"Genius of Love" のティナ・ウェイマスは本当に素晴らしいよな)がある。すごいよね。
ワタシも過去のエディションをすべて観ているわけでないので間違いだったら申し訳ないが、訳詞の字幕がついたのは今回が初めてだと思う。正直要らんだろと思いながら観ていたが、そのおかげで "Swamp" の歌詞のアレが日本語なのに今更過ぎるが気づいたりもした。
こうして大画面で観れて良かったが、自室のちっこいテレビで観ていた時には気づかなかった音と映像の微妙な不一致に気になるところもあり、そうした意味でバーンの『アメリカン・ユートピア』のほうが映像作品としては優れているのかも、と冷静になると思ったりするが、それは本作の感動を減じるものではない。
本作において、ライブ本編の最後と思われる "Take Me to the River" でも、アンコールの最後と思われる "Crosseyed and Painless" でも、バーンは曲の終盤にさっさと一人ステージを後にする。そのあたりにも彼の人間的なクールさを感じ、後年のクリス・フランツやウェイマスによるバーンの人間性についての評言を思い出したりもした。
エンドロールにハル・アシュビーへの謝辞があるのがなぜか疑問だったが、購入したパンフレットで、本作の編集にアシュビーが発明したシステムを導入したからというのを知った。今度は、2023年版の謝辞にポール・トーマス・アンダーソンの名前があった理由を知りたくなった。